あの連続テレビ小説(ってまだ言ってるのかな,いわゆる「朝ドラ」である)「あまちゃん」で,尊敬する大女優・鈴鹿ひろ美に「女優になるにはそのナマリを治せ」と言われた主人公・天野アキは「ナマってる役だけ演じる女優ってのはダメだべか?」と訊き,「それが出来るのはあき竹城さんだけ」と一蹴される。このシーンを観てたとき,いや,もう一人伊藤克信がいるぢゃないか,あき竹城ほど売れてないけど,と思ったんだよね。
伊藤克信と言えば「の・ようなもの」である。で,この映画はあれの続編…というか35年後の後日譚なのである。
「の・ようなもの」のラストで真打ちに昇進した出船亭志ん米(尾藤イサオ)の内弟子志ん田(松山ケンイチ)が主人公。大学を出て一度就職してから弟子入りしたため30歳の誕生日を迎えて未だ前座の彼に,師匠から「行方不明の志ん魚(伊藤克信)を探してこい」と厳命が下る。近く開催する予定の一門会で「志ん魚ちゃんの『出目金』を聴きたい」というのが後援会長(三田佳子)のたっての要望なのだ。
志ん魚の故郷,日光を振り出しに探索を開始する志ん田。しかし持って生まれた融通の利かない性格もあって思うに任せず,見かねた師匠の娘・夕美(北川景子)がいろいろと手がかりを…信州,静岡と走り回ったあげく,結局歩いていける下町谷中で町内の便利屋をやっている志ん魚を発見。ところが彼は兄弟子達のたっての頼みを「できません」と。それで当然,志ん田の次の仕事はその「説得」ということに。
この,伊藤克信のようなニンゲンしか演じられないが,伊藤克信のようなニンゲンを演じさせたら右に出るものはいないという種類の役者である伊藤克信と,おそらく現在の日本映画界で最高のカメレオン俳優である(この映画のあとは漫☆画太郎原作の「珍遊記」に主演,そしてそのあと20kgほど増量して,「東の羽生,西の村山」と並び称されながら夭逝した天才棋士・村山聖を演じることになる!)松山ケンイチのオフビートな掛け合いは見なくちゃ損である。
そして天下無敵のおきゃんを演じる北川景子!
いやその辺について多くは語るまい。いまでも覚えてるんだが,35年前の「の・ようなもの」のポスターには確か「ボタンダウンの似合うスタッフは『ニュアンス』が映画にとって最重要だと考えました」みたいなことが書いてあって,実はこの言葉に惹かれてオレはあれを観に行ったのだ。ラスト,35年前と同じ主題歌「シー・ユー・アゲイン雰囲気」が流れ始めたとき,オレを包み込んだ『ニュアンス』は実になんというかどうにも切ないくらいあの時のそれと同じものでした。