山本周五郎の原作を松田優作主演で1976年に映画化した時代劇。とにかく松田優作のサムライというだけで結構珍しいのに (つうかオレはパッと他に思いつかない),その上このサムライが臆病で弱虫,劇中一度も刀を抜かないという異色中の異色。これがなかなかの傑作なのである。
松田優作演じる双子六兵衛は越前福井家きっての憶病者,剣術槍術まるでだめ,犬が恐くて饅頭が好物。妹かね(五十嵐淳子)との二人暮らしながら,その評判が災いして自分にも妹にも縁談一つかからない。このままでは双子家は自分の代でおしまいであるが,かといって何か思案があるわけでもなく,ただただ無事に日々を過ごしている。
そんなある日,藩で剣術指南をしていた剣豪・仁藤昂軒(丹波哲郎)が,殿様のお気に入りである御側小姓・加納平兵衛(岸田森)を斬って逐電するという事件が起こる。激高した城主は仁藤を上意打ちにせよと命じるも,仁藤の腕を知っている藩士からその役目に名乗り出るものはない。もともとこの殺人事件そのものが,仁藤がその武芸で城主の覚え目出たいのを嫉妬した連中が数を頼んで闇討ちに出て返り討ちにあったというものなのだった。
この事態に,なんと憶病者の双子六兵衛が名乗りを上げた。
もとより成算あってのことではなく,上意討ちの刺客になれば,たとい役目を果たせず討ち果たされたとしても,後に残された妹の縁談くらいはなんとかなる,という悲壮な計算をしての自薦であった。おっかなびっくりの追跡行を経て,やがて追い付き仁藤の強さを目の当たりにした六兵衛は,時代劇史上に残るであろう驚天動地奇想天外な兵法を思いつく…。
うう,この計略の中身を書きたい! が,それを書いてしまうのはこの90分あまりの映画の全部を語っちまうようなもんだからな。身を石にして我慢する。上の他に,高橋洋子, 桑山正一などが好演。ラストはもそっとなんとかならなかったのか,と思うけれども絶対に観て損はしない一品であります。