ゴジラの音楽 – 伊福部昭、佐藤勝、宮内國郎、眞鍋理一郎の響きとその時代 小林淳著

 「ゴジラの音楽」ったら,なんと言っても伊福部昭である。2004年だったか日本フィルハーモニー管弦楽団が開いた「伊福部昭 卒寿(90歳)を祝うバースディ・コンサート」を観に行ったら幕間にゴジラが出てきて先生に花束を贈ってた。そのくらい(オレたちの年代のニンゲンにとっては「特に」かも知れぬが)伊福部先生とゴジラ…ちうか怪獣映画の間には切っても切れない連想の糸が存在する。

 が,調べてみるとゴジラ映画のすべてで伊福部先生がスコアを書いてたわけではなく,昭和期(1954年~1975年,1984年の復活ゴジラは時代は昭和だけどどっちかと言うと平成ゴジラのくくり)に製作されたゴジラ映画15本のうち8本。他に佐藤勝,宮内國郎,眞鍋理一郎といった作曲家があのゴジラを音楽面で支えてきた。

 本書は,これら4人が担ったゴジラ映画の音楽が,いかに機能し何を生じさせたか,また4人がいかなる個性を持ち,どのような作風を展開していったかを,まさしく「語り尽くした」労作である。と,書くとなんか音楽理論とか演劇論とかそういうコムツカシイ話と思うかも知れないが,全然…いや,少しはそういう話もあるんだけれど,基本的には怪獣映画が好きなヒトなら楽しめるゴジラ映画のエピソード集であり,また怪獣映画を通して見た日本の戦後史でもある。

 それにしてもまぁ,とにかくよく調べたもんだと言うしかないよね。著者の小林さんは1958年生まれというからオレ(1961年生まれ)とさして変わらない。最初の「ゴジラ」の年にはまだ生まれておらず,封切りを記憶しているのはせいぜい「モスラ対ゴジラ」(1964年)くらいからだろうに,こんだけの本をものするには資料だけでもハンパな量ぢゃないだろう。

 オレが全然知らなかった話をちょっと挙げると,第1作「ゴジラ」の演奏には伊福部先生と昵懇だった黒柳守綱氏(あの徹子さんの父君,朝ドラ「チョッちゃん」では世良公則が,「トットてれび」では吉田栄作が演じてた東京交響楽団のコンマス)が参加してヴァイオリンを弾いていたこと。現在「ゴジラのテーマ」として有名なあの「ドシラ,ドシラ,ドシラソラシドシラ」はもともとはゴジラではなくゴジラから東京を護ろうとする防衛隊側の楽曲として作られたこと。この辺,小林さんは「ファンならこれらのことは耳にタコだろう」と書いてるが恥ずかしながらちーとも知りませんでした。

 もっとびっくりしたのは実際に封切りで映画を観ており,そのうえ当時ソノシートまで持っていた「ゴジラ・エビラ・モスラ南海の大決闘」(1966年)のなかで「モスラの唄」を歌うインファント島の小美人を演じていたのがザ・ピーナッツではなくてペア・バンビという別のデュエット・グループだったこと。えぇ! この「モスラの唄」がモスラが登場した映画「モスラ」で使われたのと違うことは知ってたけど,歌ってるのはザ・ピーナッツだと信じて疑いませんでしたよ。

 …とまぁ,そんなぐあいで書き出すととまらないくらい「そうだったのか」とか「そうそうそれは覚えてる」とか,とにかくいきなり頭の中が10歳くらいになってしまうような話が満載の大冊であります。つうか,またぞろ「ゴジラ」映画が観たくなっちゃうよね,こういうの読むと。


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: