ノー・エスケープ 自由への国境 ホナス・キュアロン監督

 アメリカ=メキシコ国境。まだ「壁」はないが,荒れ果てた砂漠地帯に有刺鉄線の「境界」が続く。かつてアメリカで働き妻子と暮らしていたが不運にも強制送還されてしまったモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)は幼い息子と再び暮らすため,越境ガイドのロボ(マルコ・ペレス)に金を払い再びアメリカを目指す。

 が,一行を乗せたトラックは砂漠で立ち往生。しかたなく徒歩でアメリカを目ざし歩き出すが,国境の有刺鉄線をくぐり抜けてほどなく,先導役のロボがもんどり打って倒れる。どこからか飛来した銃弾が彼の頭を撃ち抜いたのだ。身を隠すものとてない荒野(原題はまんま「Desierto」)で,不法移民達はに次々と倒されていく。

 脚の遅い仲間を気づかったために遅れまだ平原につづく丘の上にいたモイセスは,連れの男を銃弾で失ったアデラ(アロンドラ・ヒダルゴ)という女と二人と身を隠すが,銃弾の主サム(ジェフリー・ディーン・モーガン)は,よく訓練された猟犬トラッカーと共にピックアップトラックに乗って執拗に彼らを追ってくる…。

 ストーリーの骨子はスピルバーグの「激突!」に似ている。襲撃者の武器がライフルなので顔を見せないわけにいかず,顔が見えると必然的にその人物の複雑な「感情」が表出する分「恐怖」が減じてしまうのだが,そこをうまく犬で補っている。いや実際,この犬の「演技」は特筆モノ,飼い主に忠実であるという犬の「美徳」が飼い主の「悪意」を増幅する怖さは半端ではない。その分犬好きにはちとツラかったりするんだが。

 監督のホナス・キュアロンはあの「ゼロ・グラビティ」(この邦題にはちょっともやもやするがしょうがない)や「天国の口,終りの楽園」の監督,アルフォンソ・キュアロンの息子。そう聞くと映画のテイストには通暁するものがあるな。

 最後にひとつだけ。実はこの映画,本国メキシコでの公開は2016年4月。つまりドナルド・トランプが大統領選挙に勝つどころか,まだ共和党の候補者にも指名されていないころ。製作は2015年なのでこの脚本はあの「メキシコ国境に壁を作る」というトランプの公約にはなんの関係もなく書かれたもの。なんだけど,たぶん日本へも配給されて観ることができたのはトランプの「おかげ」だよな感謝はしないけど。


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