年末からのコメディアンによる性的強要事件の報道、およびSNSなどでの非難・擁護の応酬を観ててこの映画を思い出した。2011年日本公開。あの残酷映画ばっかりが好評を博すオースチン・ファンタスティック・フェスで観客賞と主演女優賞を獲得した韓国映画である。
ソウルの銀行で派遣社員として働くヘウォン(チ・ソンウォン)。盛り場で目撃した暴行事件の捜査や職場での人間関係に疲れた彼女は1週間の休暇を取り,かつて祖父が住み自分も幼い日を過ごした美しい島・無島を訪れる。島では幼馴染みで定期的にソウルに手紙を寄越す(実はヘウォンはこの手紙を読まずに捨てている)ボンナム(ソ・ヨンヒ)が大歓迎,ヘウォンのために3日もかけて掃除したという祖父の家に迎えてご馳走を振る舞う。
やがてヘウォンは,ボンナムが儒教的な男尊女卑の意識が強い島の中で一人奴隷のような境遇にあり,彼女がせめて10歳になる娘(女に学問は要らぬということで学校にも行かせてもらってない)だけでもソウルに連れていって欲しいとヘウォンに期待していることを知る。が,自身もさまざまな屈託を抱えているヘウォンはその願いを冷たく拒否。その夜,夫が娘を性の対象としていることを知ったボンナムは最後の決断をするのだが…。
降り注ぐ陽光の下,虐げられ続けた者の絶望が臨界に達し,前代未聞の惨劇の幕が開く。韓国映画界の有名女優たちが恐れをなして断ったというボンナム役に自ら志願したというソ・ヨンヒのイノセンスと狂気は圧巻。あまり顔を知られておらず,それでいて演技の実力がある役者,という難しい条件で集められた島民たちも見事。
現代に生きる日本人である我々……いや,たぶんソウルなどの都会に住む韓国人でもほとんどが「そんな時代遅れな」と思うであろう価値観に縛られた小世界で炸裂する暴力。だが我々はこの世界からそれほど遠ざかっているだろうか? 映画を観ている間,ワタシはずっと手塚治虫の「奇子」のことを思い出していた。あれは我々の,ほんの二世代前の物語なのだ。この映画を観た韓国女性の多くが「さっぱりした!」とか「爽快!」という感想を口にしたそうな。いや女性ぢゃないがオレもかなり「爽快」でしたけど。