モスラの精神史 小野俊太郎著

 白状するとワタシ,東宝の初期の怪獣(これはオレの中で「ゴジラの息子」の前という意味である。ミニラは最低だ)の中で,モスラだけはちとイマイチだと子供の頃から思ってた。

 なんつうかな,着ぐるみでもないくせに身体のバランスがぬいぐるみ的というか,モノホンの蛾に比べて頭でっかちで「可愛らし過ぎ」だろと,「子供に媚び過ぎ」なんぢゃないか,と思ってたのね。自分も子供のくせに我ながら可愛くないガキだが,怪獣好き,かつムシ好きとしてはもそっと造形にリアリティが欲しかったわけだ。「ムカデぢゃあるまいし,6本の足がみんな同じ長さのわけねぇぢゃねぇか」とか。

 この本はそのモスラが初登場した1961年公開の映画「モスラ」(本多猪四郎監督)を主たるテキストとして,オビにあるとおり「なぜ蛾の姿なのか? あの歌の意味はなにか? ゴジラとどこが違うのか?」という「モスラの謎」について考察したもの。残念ながら少年時代にオレが持った疑問には一個も答えてない……つまりあの頭の大きさとか足の造作とかは著者にとっては「謎」ですらないわけだ,が,もっと形而上的なところで興味深いハナシが多々有り,それなりに面白く読めた。

 原作(なんとあの映画には原作がありそれも中村真一郎,福永武彦,堀田善衛という「純文学」小説家の共作だったのだ)で4人,身長60cmだった「発光妖精」がザ・ピーナッツ演じる身長30cmの2人の「小美人」にされた理由や,彼らとモスラの故郷であるインファント島の位置,幼虫が東京タワーに繭を作るに至った経緯など,ことさら怪獣映画好きでなくても一度でも「モスラ」を観たことがある人であれば「ああそうだったのか」と合点すること必至である。

 さらに成虫モスラのアメリカ(映画ではロリシカ)本土攻撃の背景,そして宮崎駿の「風の谷のナウシカ」における王蟲がこの「モスラ的主題」の直接の後継者であるという分析にハナシは及ぶ,もはや「なるほど」と唸らざるを得ない。でも実はオレにとって一番のメウロコだったのは「東宝」という映画会社の名称が「東京宝塚」の略だってことだったりしたんですが(恥ずかしながらちっとも知りませんでしたわ)。


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