自身夢想神伝流居合道四段である剣豪作家による,剣豪たちの「列伝ではなく通史」。
かく言うオレもご幼少のみぎりから忍者マンガだの剣豪マンガ,長じては時代小説の類いを愛読し,上泉伊勢守の新陰流,塚原卜伝の新当流,宮本武蔵の二天一流だのという,個々の流派のエピソードは結構知ってる方ではある。が,これらが歴史のなかでどういう系統関係にあるのかとなると全く「?」であった。
本書はそうした蒙に光を与えた意欲作である。
そも日本の剣術は古墳時代,常陸国鹿島神宮の神官・国摩真人が編み出した「鹿島の太刀」であるとか,この伝承である「関東七流」に対して,西国京都において陰陽師・鬼一法眼に薫陶を受けた八人の弟子による「京八流」があり,伝説によればその一人が牛若丸,すなわち後の源義経であるとか…。
そんな具合に剣豪の歴史が幕末まで語られるわけなんだけど。
残念なのはそれら個々の「剣法」の内実…というか,どういう剣法だったのか,という解説が何もないこと。もちろん当時(今でも?)「秘伝は口伝」とかで門外不出,一子詳伝,流派の秘術は自分を超えた弟子にしか伝えない(って剣豪小説がよくあるが,師匠を超えた弟子の側はもう超えたんだからそんな秘伝要らないんぢゃないか,と思うんだよねそういうもんでもないのかしら)てなものかも知れないが。
それでも過去の,もうない流派についてはなんかあって欲しいではないですか。以下は完全な捏造ですけどたとえば「すっとこどっこい流の基本戦略は『己を間抜けに見せて敵の油断を誘う』ことである。隙だらけの構えを見せておいて相手の打ち込みを誘い,これを実は鍛えに鍛えた膂力とスピードで捌くのである…」とかさ。そういう解説があったらそれこそ時代劇ファン必読だったんだがな。