大江戸曲者列伝・幕末の巻 野口武彦著

 野口武彦著「大江戸曲者列伝・幕末の巻」,以前ここで紹介した「大平の巻」の続編である。世情は打って変わって激動の時代,しかしだからって人間は変わらないわけで,やることなすこと残念なヒトはやっぱりいるし,後の偉人たちにもスットコドッコイな失敗談があったりするのである。

 皮切りは大河ドラマ「花燃ゆ」の登場人物にしてアベ元首相が敬愛してると言ってた吉田松陰。彼が米国船への密航に失敗した原因はなんとウソかマコトか患っていた酷い疥癬が(ひらたくいえばインキンタムシだ)が黒船の船員たちに敬遠されたからだという裏話。

 続いては安政5年,日米修好通商条約締結のために渡米した使節団の一員で,あちらの新聞にトミーと呼ばれて人気者になった17歳の立石斧次郎の消息,返す刀で公武合体政策の犠牲となって14代将軍家茂に嫁いだ和宮内親王の臼歯4本を奪った虫歯の原因に思いを馳せる。

 わいろ政治家として名高い曽祖父田沼意次(江戸の田中角栄か)の汚名を雪ごうと,律義というよりクソ真面目に水戸天狗党を壊滅させた田沼意尊の完全主義を嗤い,あのコイズミジュンイチローが大好きだった「米百俵」の美談がどういう失政が元ででき上がったかを暴露しちゃう(これ傑作)。

 嗤うばかりではない。神戸事件の責任を取らされて切腹した滝善三郎の悲哀に同情し,会津藩最後の護りとなった老人組(有名な白虎隊は少年兵,年齢が上がるに連れて朱雀隊,青竜隊,玄武隊とあり,59歳を超えるとこの老人組に入れられた)が槍を取って最後の抵抗を試みるのを遠巻きにして射殺した官軍の無情を憤る…。

 コシマキにもそうあるとおり(あ、Kindle版にはコシマキがないではないか,残念)まさしく「歴史はドタバタで作られる」という幕末裏面史。いや,これは掛け値なしに読む価値あります。


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