山嵐 今野敏著

 あの「姿三四郎」のモデルになった初期講道館の柔道家,西郷四郎の評伝…いや,かなりフィクションがはいってそうだから伝記小説かな,である。

 今野敏と言えばあの衝撃の「怪物が街にやって来る」以来,オレの頭の中ではなんつうか「超能力格闘ジャズ小説」というイメージがあったのだが,続いて読んだ「アキハバラ」(これは傑作,かつてのアキバ少年,現在のアキバ中年,アキバ壮年必読である。出て来る店のモデルがどこだかまでイメージできて楽しいぞ) で,おお最近はこんなもん書いているのかと思い,この「山嵐」でうう,ついにこっちに足を踏み入れましたか,と刮目した。

 いや,今回これを書いていて初めて本人のサイトがあるのを知ったんだけど,これによれば草空手の塾までやってんのね。誰だかジャズに詳しいヒトに,あの今野敏という作家は空手もマジで強いんだよ,と教えられたことがあったような気がするが,そうですか,なに大阪支部まで開設してますか。

 さすがに小説の端々に実際に格闘技をやってないとこういう表現は使えないのではないか,と想像できるトコがあるよね (これを「想像するだけ」なのはワタシがそんなものはやってないからですが) 。

 昔むかし,好きものの友人達と格闘技について調べたことがあって,結局日本の武道で一番謎に満ちて神秘的なモノスゴサを持つのは「合気道」だ,という結論に達したことがあるんだけど,今野さんもそうみたい。巻末の広告にある「惣角流浪」というのも読みたくなった。

 あっとでも格闘技に関するだけの本ではないのだ,評伝としても面白い。西郷四郎に関する他の本を読んでないのであくまで印象なんだけど,映画や物語りのヒーロー「姿三四郎」的イメージから人間・西郷四郎を解放することにはかなり成功していると思う。神坂次郎が書いた「縛られた巨人〜南方熊楠の生涯」みたいなとこも(つか,これも傑作です,おススメ)。


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