唐突だがあのドバイの超高層ビル,168階建てのブルジュ・ハリファの高さは828.0mである。オレの身長が1.7m……ま,だいたい平均くらいですか(高校卒業時,その年齢の日本人男子の平均ビタだった),だから,あのビルはオレが約487人,縦に積み重なったくらいとうことになるわけ。ではここで問題。あのドバイのビルは,オーストラリアで発見された「おそらく世界一高いシロアリ(アミテルメス・ラウレンシス)の巣」と比べ,対「作成者の体長」比でどっちが高いか。
答えはもちろんシロアリの巣のほうなんだがそれでも約800匹分(6.7m)。人間もなかなかやる……ぢゃなかった,人間から観ればケシ粒以下の脳しか持たないシロアリの建築能力は,巣の自重がケタ違いであることを考えに入れても瞠目に値すると言えるだろ。しかもこの高層建築,ちゃんと空調まで整備されているのである。
この本は,このシロアリのような「建築する動物たち」の能力がどういうふうに進化してきたのか,そこには人間が「創意工夫」と呼ぶような要素があるのか,それとも彼らはただ単に本能に従っているだけなのか,を解き明かそうという現在進行形の研究の…なんてんですかね,ここんとこ読者としては隔靴掻痒なんだけど,中間報告みたいなもんである。
隔靴掻痒と書いたのは,まだ解明されていない要素がやたら多いから。
例えば単細胞生物(脳細胞もヘチマもない!)であるアメーバの一種,ディッフルギア・コロナータという種は,数百個の石を張り合わせて持ち運び可能な球形の巣を製作する。79ページにその写真が出てるんだがこれがスゴイ。直径150μm(1000分の1.5ミリ)の巣のてっぺんには7~8本のツノのような突起があり,底に開いている丸い出入り口の周囲にはひだ状の飾り(?)まであるのだ。
ああ,これを皆さんにもお見せしたい。ネット中を探し回ったのだが手がかりが「ディッフルギア・コロナータ」というカタカナの名前だけで,それではGoogleもお手上げなのだ。…で,ほんぢゃこのアメーバがどーやってこれを作るのか,という話になるんだが,「実はまだよくわかってない」のである。
あるいはヒメノエピメシス・アルギラファガという舌を噛みそうな名前のハチ。このハチはプレシオメタ・アルギラというクモのの腹部に卵を産み付ける。孵った幼虫はクモの体液を吸って育つ。その間もクモは獲物を取って暮らすのだが,幼虫がサナギになる時期が来ると異変が起こる。それまでちゃんとした円形の「クモの巣」を作っていたクモが,気が狂ったように目の詰まった頑丈な網を作るのだ。
クモがこの網を作り終えると幼虫はクモの体液を吸い尽くして殺し,この網の中心からぶら下がって自分の繭を作りその中でサナギになる。文字通りこのハチの幼虫はクモの行動を「操って」いるわけだが,わかっているのはそこになんらかの化学的な信号が関わっているということだけ。詳細は「まだわかってない」んだよね。
ほかにもハタオリドリ類の縫製能力とか,ニワシドリ類のアベニュー作りなど,なんちうかこの本,中学生あたりが読むにはちと難しいかと思うのだが,オレが今中学生でこの本を読んだら,絶対に生物学者になってこの研究をしてみたい!と思うに違いないような話満載なのだ。こんな面白い本滅多にないよホント。