後妻業の女 鶴橋康夫監督

 コワい役を振られた大竹しのぶは想像を絶するほどコワい。

 あ,いや,もちろん彼女は現代日本を代表する女優の一人なので,かわいい役の時はかわいいし,はかなげな役の時ははかない。わけなんだけど,コワい役のときの彼女はそういう次元ではなくて,なんつかスーパーサイヤ人になってシュワシュワ言ってる悟空が「さらにもう一段の変身が可能だ」というあれみたいにコワいのだ。

 で,この映画の彼女はそのモードである。

 武内小夜子,63歳。盟友・柏木(豊川悦司)が主宰する結婚相談所の婚活パーティで「若くして夫を失った熟年女性です。好きなことは読書と,夜空を見上げること。わたし,尽くすタイプやと思います」と自己紹介する彼女は,これまでに元害虫駆除業・元木(六平直政),元不動産会社社長・津村(森本レオ),元テレビ局役員・武内(伊武雅刀)などと結婚,その死を看取り遺産を手にしてきた「後妻業」の女。

 現在彼女が付き合っているのは元短大教授・中瀬(津川雅彦)。籍は入れていないものの「内妻」として遺産相続の公正証書に判を貰った小夜子は一緒に散歩に出た中瀬を炎天下に放置,脳梗塞を起こさせる。そして病院に駆けつけた二人の娘,尚子(長谷川京子)と朋美(尾野真千子)に「お葬式のお金がないんです〜」。元大学教授の葬式なんだから400万は掛けたい,わたしが200万出すから娘二人で200万出してくれ,と切り出す。

 やがて中瀬は身罷り,葬儀も終わったそのあと,娘二人は小夜子から「全財産を小夜子に譲る」と書かれた遺言公正証書を突きつけられて愕然。主婦で世間知らずの姉・京子はおろおろするばかりだが,独身,一級建築士として自らの事務所を構えている朋美はいきりたつ。高校時代の同級生で弁護士をやっている守屋(松尾諭)に相談すると「その女,『後妻業』だな」と言われ,元警察官だという興信所職員・本多(永瀬正敏)を紹介される。依頼を受けた本多は早速小夜子の過去を洗いにかかるが…。

 うーん,全編に横溢するなんつか「ナニワ的本音感」がたまらない。金持ちの老人と結婚して看取る(まぁ「殺す」わけだけど)ことを「功徳や」と言って憚らない小夜子,そのキャラに内心舌を巻きながら「儲けは折半」といただくものはがめつくいただき,しかしその金を若いホステスたち(水川あさみ,樋井明日香)にまんまと吸い取られる柏木,朋美から依頼を受けながら,調査結果をネタに後妻業コンビを強請ろうとする本多,そして小夜子が次のターゲットと狙う不動産王・船山(笑福亭鶴瓶)。

 弁護士役の松尾諭だけでなく,余貴美子,柄本明も出番こそ少ないが軽くはない役柄で出てくるせいか,後半のある瞬間には小夜子の顔がゴジラに見える(「シン・ゴジラ」の見過ぎ)。大阪を舞台にしたゴジラならアンギラスが付き物ですな。さぁ果たして誰がアンギラスか…は観てのお楽しみ。


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