悪なき殺人 コラン・ニエル著

 舞台はフランス、山間の小さな村。この村を出て外国で成功した男ギョームが、美しい妻を連れて戻ってくる。彼は村に瀟洒な屋敷を建て、妻をそこに住まわせる。自分は仕事のあるパリとの二重生活。過酷な労働、後継者不足によって破産したり精神を病む農業従事者が少なくない村で、当然夫婦の評判はあまり芳しくない。

 1月のある日、その妻エヴリーヌが行方不明になる。その日の午後トレッキングに出かけた彼女は、麓に自分の車を残したまま戻らず、その晩山は猛吹雪になった。憲兵隊の必死の捜索にもかかわらずその姿はかき消えたまま…。しかしその行方についてわずかな手がかりというか疑惑のようなものを持つ女がいた。

 第一の語り手。農協のソーシャルワーカー、アリス。家族経営の小さな農場が、夫婦の片方の死や農業を嫌う子供の出奔などで苦しくなった農業従事者の相談に乗っている。その仕事を通して知りあった農夫ジョセフと不倫の関係にあったが、失踪事件の直後からジョセフの態度が急変したのだ。彼は事件について何か知っているのではないか…。

 第二の語り手。カルスト台地で羊を飼うジョセフ。数年前に母親が死んでからたった一人で羊の世話をしている。アリスと肉体関係にあるが、彼女を愛しているわけではない。そもそも誘ったのは彼女のほうで…。あの夜。聞きなれぬ物音に外に出てみると羊小屋の前に女が、女の死体があった。女のことは知らないが、その夫であるギョームとは因縁があった。見つかれば犯人にされてしまうに違いない…。

 第三の語り手。デザイナーの卵、マリベ。村で若者たちが集うコミュニティの一員で自作の服を売ったり足りない分は農作業のアルバイトをしたりして暮らしている。元カレにせがまれておっぱいに入れたシリコンを後悔している彼女がここに来たのは、パリで出会ったエヴリーヌに誘われたから。マリベは彼女に夢中だった。しかし最近エヴリーヌは冷たい。そのうえ身辺に妙なことが…。

 ここで突然舞台が替わる。アフリカのどこか(解説によればコートジボワールらしい)。第四の語り手はこの街のスラムでインターネットを使ったロマンス詐欺を働いているアルマン。出会いを求める若くて奇麗な女をでっちあげ、出会い系サイトから抜き出したメールアドレスに一斉送信する。返事を寄越したカモ候補にネットでひろったAV女優の写真を送りつけ、長い時間をかけて「愛情」を育んで行く…。

 この詐欺師アルマンの語りがフランスでの不可解な事件を解き明かして行く(もちろん本人には全然そんなつもりはないというか、彼はフランスで起きたエヴリーヌ失踪事件などまったく知らない)過程は見事。このテイストは「死刑台のエレベータ」だよな。日本公開はされなかったらしいが、映画にもなってる。捜したらアアマプラにある! 今度観よう。


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