斧 ドナルド・E・ウエストレイク著

 傑作である。ドナルド・ウエストレイクと言えばオレが生まれたころにデビューした大御所,大ベテランなんだが,1997年 (原書の出版年) になってまだこんな小説が書けるのか,へぇ。

 物語はこうだ。長年勤めた製紙会社でリストラを食った主人公バークは,2年に渡る職探しの末にある結論に達する。自分の就きたいポスト (彼はポリマー加工紙生産ラインの監督だった,経験のある同じ職に就きたいと思っている) が勤まるヤツは世にあまり多くない。問題なのはその多くない適任者よりもポスト自体が少ないことだ。

 彼は業界紙にウソの求人広告をだして履歴書を集め,自分と同じ職に就きたがっていて,なおかつ自分より有利に思える 6人をピックアップする。彼等を殺し,しかるのち適当な企業のそのポストにいる人間を殺せば,水が壺におさまるように自分は再就職できるはずだ。50歳という年齢を迎えるまで人を殺すなんて考えたこともなかった普通の男が,切羽詰まって立てたこの「再就職作戦」は果たして成功するだろうか。

 このバークというおっさんが抑えた筆致の (ときおり爆発するが) 一人称で語るオモシロ悲しく恐ろしい殺人行脚。ウエストレイク得意のコメディ・ミステリーの洒脱を残しながら,パトリシア・ハイスミスのような後味を醸し出す,いやしかしこれはウエストレイク新境地ではないかしら。


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