一人の男が誘われて内輪の宴会に出る。集まりの口実はなんでもいい,たまには集まって美味しいお酒と料理を楽しみましょうという主旨の持ち寄りパーティ。総勢7名,そのうち2名が初対面。
乾杯と自己紹介が済みてんでに雑談が始まるころ,男は初対面の1人である女性のとなりに5歳くらいの少女がいるのに気づく。確か紹介はされていない。女性の背中にへばりつくようにしており,料理を口にするでもなくもちろんワインを呑むでもない。ときおり女性の耳元に口をつけて何か囁く。女性もそれに対して小声でなにか答えているようだが,彼女の方を観ようとはしない。
みなお腹ができあがり,ホステス役がコーヒーを淹れる。思い思いにテーブルを離れ,ある者はソファに陣取ってサッカーの試合を,またある者は煙草を吸うためにヴェランダへ。男は床に座って雑誌をめくっている2人に近づいて,自分の持ってきた鳥料理の感想を聞く。背中の少女にも話しかけると,2人はぼう然としてこちらを見る。
「あなた,この娘が見えるの?」
小声で訊くのに,
「え,言ってる意味がわからない」
「この娘は私の『架空の友達』なの。幼児がよく作って話しかけたりしているあれよ。普通は学齢に達したころにいなくなるものらしいんだけれど,彼女は消えずに残ってるの。でも,見えるなんて人初めてよ。聞かせて,あなたにはどんな風に見えるの?」
仰天して再び少女を凝視する。不自然にならないように気をつけて,彼女の髪をさわろうとするが,目にははっきり見えるのになるほどそこには何もないのだ。
「歳は5歳くらいかな。髪は長くて腰くらいまである。服装は……ピンクのブラウスにカーディガン,下は赤いスカートに靴下を穿いてるよ」
その不思議さから意気投合し,数ヶ月の交際を経て2人は結婚。そして数年後,くだらない諍いがこじれて離婚することに。
その調停の席上,子供もいないことだし一方的にどちらのせいというわけでもない。さしたる問題はありませんね,と言う弁護士に,男は「架空の友達」が彼の側に残るつもりでいるらしいことを説明できない。