石岡タロー 石坂アツシ監督

 石岡市というのは、茨城県、霞ヶ浦の北西に位置する人口7万人くらいの街である。平成19年まで、ここから鉾田市まで「鹿島鉄道線」、通称かしてつというのが走っていた。映画はまだこの路線が鹿島参宮鉄道といっていた1963年に始まる。沿線の玉造町から毎朝この気動車に乗って石岡の幼稚園に通うキョウコという少女がいた。少女の家は玉造で電器店を営んでおり、コロという子犬を飼っている。

 コロは毎朝駅までキョウコに付いてくる。一緒に車両に入り、発車のベルが鳴るとドアから駆け降りて店に戻った。町の人たちもそれを知っていて「コロ、見送りご苦労様」などと声を掛ける。ところが卒園間際のある寒い日。キョウコとコロが乗り込んだ車両は大きな荷物を持った行商人たちでいっぱい。発車のベルに降りようとしたコロは荷物に阻まれ、キョウコと一緒に石岡まで来てしまう。

 ホームでコロを抱き途方に暮れるキョウコ、ひげ面の行商人に「犬を乗せたらいかん」と説教されて恐怖し、駅員に「この犬はお嬢ちゃんの犬?」と尋ねられても答えることができない。そして駅員がコロをキョウコから離そうとした刹那、コロはその腕をすり抜けて駅舎の向うに消えてしまう。コロを捜すこともできず帰宅したキョウコは熱を出して数日寝込み、話を聞いた父親がバイクで石岡の町を探し回るがコロの行方はわからない。

 数日後,石岡市の東小学校の住み込み用務員の娘が針金で縛られ怪我をした子犬を見つけて来る。タローと名付けられた犬は学校黙認のもと、毎朝校門で児童たちを出迎え、1年生のクラスを見回り、昼休みには一緒に遊んで人気者に。そしてある春、新1年生の女児のおさげの髪にタローのなかで何かが蘇る。タローはその足で2キロほど離れた石岡の駅まで行き、改札を出てくるヒトビトを凝視する。

 以来17年間、PTAに咎められて保健所に収容された期間を除いて毎日、朝夕二度、タローは石岡駅に通い続ける。いつか人気者になり、改札を出てくる乗客はタローに挨拶をする。沿道には専用の鉢を用意して食べ物をくれる者まで現れるが、なぜ彼が駅に来るのか、駅に来ていったい誰を待っているのか誰にも分からない。そしてタローが息を引き取って四半世紀が経とうというある日、一つの新聞記事をきっかけにすべてが解き明かされる…。

 こういう言い方をしたらナンだが101分の尺のかなりの部分、映像は「ただ犬が歩いているだけ」である。でも、無邪気に犬と遊ぶ子供たちの歓声、そこら中からかき集めたという昭和30年代、40年代、50年代の車両が行き来する道。歩道橋や踏み切り(タローの前をリスらしきものが横切ったりする)。用務員が腰から下げる手ぬぐい。そして駅員がハサミをガチャガチャ鳴らしながら立っている改札口。それらすべてが観ているこっちの涙腺を搾る。いい映画撮ったなぁ。


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