原題「Timbuktu」…ティンブクトゥと発音する。90年代に結構流行った Macintosh 用のリモート・デスクトップ・ソフトウェアの名前として記憶している人も多かろうが(多くはないか),もともとは西アフリカ,マリ共和国の古都の名前である。このちょっと変わった名前は英語ネイティブにも相当エキゾチックに響くらしくこれをもじったTimbuk 3というバンドまであった。
しかし,残念ながらこれはそんな異国情緒を楽しむような映画ではない。
舞台はティンブクトゥ近郊の街。8頭の牛を放牧して暮らす夫婦キダン(イブラヒム・アメド・アカ・ピノ),サティマ(トゥルゥ・キキ)とその娘トヤ(ライラ・ワレット・モハメド),そして一家が引き取った孤児のイサン(メヒディ・A・G・モハメド)。キダンの本業は音楽家だったが,街を占拠したイスラム過激派ジハーディストたちが音楽を禁じたため街外れの丘の上に退避,テントを張って暮らしている。
ジハーディストたちの圧政は日毎に苛烈さを増し,家の中で歌を歌っていたというだけの理由でファトウ(ファトウマタ・ディアワラ)という女性がむち打たれ,街でジハーディストに見初められた少女は「神の意志」だと無理やり望まぬ結婚を強いられる。サッカーボールを使うことを禁じられたため,空想のボールを蹴って遊ぶ子供たちを追い散らす過激派たち。
そんなある日,水を与えようとイサンが川に連れて行ったウシ達の1頭が漁師アマドゥの仕掛けた網の上に足を踏み入れてしまう。激昂したアマドゥは手製の槍でウシを殺害。泣きながら戻ったイサンから一部始終を聞いたキダンは護身用の銃を懐に話をつけようと川へ向かうのだが…。
まさしく息を飲むほど美しい自然のなか,「人間という生き物」だけがその知能ゆえに産み出した信仰や思想が現出させる悲劇に言葉を失う。音楽もすばらしい。必見。