私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか―ロジャー・コーマン自伝 ロジャー・コーマン著

 ロジャー・コーマンのドキュメンタリー映画「コーマン帝国」を観に行ったとき,そう言えばこのヒトはあのウディ・アレンの映画「ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEX のすべてについて教えましょう」のこと)みたいに長いタイトルの自伝を出したはずだがまだ読んでなかったなと早速入手して読み始めたのはいいんだけど。

 とにかくタイトルにもあるように…ってこの本は実は1990年に出版されたもので(邦訳が出たのは92年),当然ながらおっさんそのあとも映画をつくり続けており,その総数(制作または製作総指揮作品)はとうに400本を超えてるんだが,映画の題名だけでも数え切れずその監督やスタッフ,出演者まででてくるのでつまりは固有名詞のヤマ。

 と言ってあなた,ワタシこれからロジャー・コーマンの伝記映画を作ろうというわけでもなく(つうかそれがこの本を読むきっかけなんだった),またロジャー・コーマン研究とかの論文でどっかの博士号を狙ってるわけでもないので(そもそもそんなんで博士号もらえるか?),出てくる固有名詞をいちいちデータベースに登録し,初期のコーマン映画「金星人地球を征服」や「女囚大脱走」の女優ビヴァリー・ガーランドも「原子怪獣と裸女」には出てないとか,コーマンが唯一「赤字を出した」,あのカーク船長ことウィリアム・シャトナー主演作「不法侵入者」の脚本は翌年のヒット作「怪談 呪いの霊魂」と同じチャールズ・ボーモントだったのかとかそういう重箱のスミツツキみたいなことをやる趣味もない。

 そうは言うがオレが観ているコーマン作品ってさほど多くなく,まぁ定番の「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」…ジャック・ニコルソンが出てたほうね。この映画はコーマンが別の映画で使ったセットを再利用して2日で撮ったモノとして有名で,登場する人食い植物にカルト的な人気が沸騰。NYでミューカルに翻案されてヒットした。そのミュージカルを元にリック・モラレス主演で制作された1987年のカラー映画は,オリジナルの数百倍の費用をかけて赤字だったと本書にある…とか「アッシャー家の惨劇」,「恐怖の振り子」。新しいところでは「フランケンシュタイン 禁断の時空」くらい。あ、ラモーンズが出てくるロックネタの映画もあったな。

 そういういわゆるB級映画(コーマン本人はそう呼ばれることを好まないが)を作りつつ,海外の優れた作品,カネになりそうな作品をアメリカに持ってくるという仕事もやっていて,皆の反対を押し切って黒澤明の「デルス・ウザーラ」を公開したり,ベイルマンの「叫びとささやき」を配給したりしている。このテの話で一番吃驚したのは彼があの「日本沈没」に手を入れ,特撮部分以外ほとんどを撮り直して「国連の人々が日本人を未曾有の災害から救出しようと努力する映画」として公開してたという事実……このフィルム,ちょっと観たくないっすか? なんて題名なんだろ。

 そんなこんな,ただただこれでもかこれでもかと繰り出される有名無名多士済々有象無象死屍累々の固有名詞に圧倒されて読了。いやホント,水野晴郎さんではないが,映画ってホントにいいもんですね。


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: