雪の結晶が六角形なのはかなりよく知られている事実である。子供の頃,学習雑誌の口絵かなんかで写真を観てその美しさと不思議さに魅せられた憶えのあるヒトも多かろう。でもオレを含む多くのヒトは日々の暮らしのうちにあのときの驚きや感動を置き去りにし,「雪の結晶はなぜ六角形なのか?」という質問に答えられないままオトナになってしまった。
いや,別にオレ,そう言って自分を卑下してるつもりはないんだ。「水に優しい言葉をかけると綺麗な結晶ができるんだよ」みたいなことを信じるほどバカなオトナになったわけぢゃあるまいし。ただそう言えば,なんで空は青い(青く見える)のか,とか,タイムマシンは可能か,みたいに,同じくらいの時期に持ち,今ではちゃんと答えを知ってる他の疑問に比べ,こいつに対する扱いは冷たかったな(雪だけに?)と。
そこに英国の数学者にして著名なサイエンスライターでもあるイアン・スチュアート博士がそいつをテーマに書いた本がようやく訳出されましたよ,という報せ…は来ないが偶然 Web で知ったのである。ページを開くとそこにあるのは冷たいガラス面などの上でシダの葉のように成長した氷の結晶。うんうん,子供のころはこれも好きでした。今知ってる言葉で言えばこれ,フラクタルだったんだね。続いてオウムガイの殻が描く対数らせん,そして本書のメインテーマである雪の結晶…これですよこのウツクシさ!
本文は17世紀の天文学者ケプラー(そう,あのケプラーでんがな)がこの結晶のカタチについて書いた「六角形の雪片について」という本を出発点に,自然界に生じる各種のパターン,虹の配色,波紋,トラやヒョウやシマウマの模様が生じるメカニズムを解き明かし,対称性,対称性の破れ,カオス,フラクタルへと話を拡げて最後は「宇宙のかたち」に到る。
特に対称性とその破れに関する説明はアレックス・ビレンケンの「多世界宇宙の探検~ほかの宇宙を探し求めて」に出てきた宇宙の誕生を思わせて示唆的。つまり,完全な対称性は不安定だから必ず破れる,という理解は「完全な『無』は不安定なので『有(宇宙)』が生まれた」という理解に繋がりませんか?
子供には…いや,オトナにとっても理解するには結構ホネの折れる内容ではあるが,それでも,そう,中学,高校生くらいの時にこんな本に出会っていたら人生大きく変わっていたかもな,と思う。いま,そういうことに興味を持ってるそのくらいの少年少女に強く激しくお勧めしたい本であります。きっと理科と数学が好きになるよ。文庫で改訂版が出ました。