鑑定士と顔のない依頼人 ジュゼッペ・トルナトーレ監督

 あのジュゼッペ・トルナトーレである。

 と,まぁこう書くだけでわかるヒトにはだろ。これに「あの『ニュー・シネマ・パラダイス』,『海の上のピアニスト』,『シチリア!シチリア!』の」と付け足せば,この監督のいかにもイタリア人(シチリア人?)らしい名前を記憶していなかったヒトがかなり仲間に加わると思われる。

 なのでオレの課題は(いや,別に課題でもなんでもないんだけどね),いかにして上の範疇以外のヒトの興味をこの映画に惹きつけるかである。うぬぬ,どの辺りが切り口になるか。

 チラシの中央に写っているオッサンが主人公だ。ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)。オークショニアにして鑑定士……と言ってもわからないか。絵画,彫刻,骨董品,およそオークションに出品されるような品物なら一瞥でその真贋を見分け,競りを盛り上げ高値による落札を演出する。世界中のオークションから引く手数多の男。

 しかしオークションの壇上から下りた彼の実像は潔癖症の人間嫌い。高級レストランでの食事(彼のイニシャルを刻印した食器が用意されている)の時も手袋を外さず,恋人も友人もいない。あるのは仕事と,芸術への愛。ホテルのような高級マンションの一角に設けられた隠し部屋で彼を待つ,夥しい数の女性たち。ただし二次元の。

 ここだな,切り口は。つまりこのオッサンは押しも押されもせぬ大物なんだが,実は女性経験のない二次コン。そんな彼のもとにある日舞い込んだのが,広場恐怖症で家から一歩も出られないという女,クレア・イベットソン(シルヴィア・ホークス)からの依頼。父母の遺したヴィラの骨董品を査定して欲しいというが,当人は壁の向うに隠れて姿を現さない。

 この,わがままで無礼な声だけの依頼人に腹を立てながら,この屋敷の地下にあった,不思議な機械の部品への興味も手伝ってきっぱり手を引くことも出来ないヴァージル。やがて美術品修復屋のロバート(ジム・スタージェス)が,例の部品から18世紀のオートマタ(機械人形)製作者,ヴァーカンソンの刻印を発見。クレアはヴァージルに彼女が表に出られなくなった原因,心の傷について告白する。

 クレアの心情を自分の人間嫌いと重ね合わせたヴァージル。同情はたやすく愛情に転化する(夏目漱石言うところの「かわいそうだってなぁ惚れたってことよ」ってやつですね)。女性受けのいいロバードのアドバイスに従って物陰に潜み,遂に彼女の姿をかいま見る…。

 残念だが書けるのはここまでである。ひたすら二次元の女性たちを愛でながら老境を迎えた地位も名誉もある男が初めて経験する生身の女との恋の行方は? さぁこれで,かなり観客増に貢献できただろ。え?「でも,アニメぢゃないんだもん」って,キミたちどこまで★△◎■(以下略)。


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