もともとは「墓場鬼太郎」だったころに描かれた鬼太郎誕生。これはその前日譚…というのかな、後日譚というのはあるが。昭和31年、主人公・水木は太平洋戦争をなんとか生き残った血液銀行の中堅社員。ある日彼の元に、政財界に大きな力を持つ龍賀家の当主・時貞が死んだという情報が入る。
グループ会社の一つである龍賀製薬は大口の取引先であり、水木はその社長を務める時貞の女婿・克典に取り入っていた。時貞の長男・時麿は病弱であり後継者には克典が指名されるかも知れない。水木は龍賀家との関係をより深いものにしようと、一族の本拠である哭倉村へ向う。
龍賀一族の者以外ほとんど出入のない山奥にある哭倉村、克典は自信満々で水木を迎え共に遺言状開封の席に。しかし時貞の遺言で跡継ぎに指名されたのは、顔に白塗りをほどこし束帯に身を包んで現れた長男・時麿だった。克典はショックで部屋に篭ってしまい、当ての外れた水木も与えられた離れの部屋で無聊をかこつばかり。
ところがそこに、当主になったばかりの時麿が何者かに殺害されるという事件が。大騒ぎの末、村の治安を任せられているらしい行者装束の男達が捕まえてきたのは、ここに来る列車のなかで水木の前に現れ不吉な預言をして消えた着流しに下駄の浮浪者のような男だった…。
つまりはこれが目玉だけになる前の鬼太郎の父であり、水木と二人でこのあと立て続けに起きる殺人事件の真相や、そもそもこの龍賀家がこれほどの力を持つ理由を暴いて行くわけだ。結末がなんだかオレの記憶にある墓場鬼太郎の誕生シーンにうまく結びつかないのはともかく、この横溝正史と夢枕漠をミキサーに入れてどろどろにしたような脚本は面白い。
ただ一つだけ、時代の趨勢でしょうがないんだろうけど、オレとしてはもっと水木先生の原画に近い絵柄で観たかったなぁ。