魔法のランプ

 旅先で偶然出くわした蚤の市,私は童話の挿絵にそっくりのランプを見つける。売り手の浅黒い男は流暢な英語で,「これはお買い得だよ,これは昔魔法のランプだったんだ」という。

 私はその言葉尻をとらえ「昔は魔法のランプだったというが今は違うのか」と尋ねる。男は真顔で答える。「今は違う,これからもそうなる見込みはない。だからこそ売っているんだよ」。

 その答えが気に入ったので私はそれを買うことにする。男は馬鹿丁寧にランプを包みながら「お客さん,しつこいようだがもう一度言う。このランプは昔,魔法のランプだった。今はもう魔法のランプぢゃない。なかに魔神が住んでいないからだ」と繰り返す。

 私は「そのセールス・トークは面白かったが,もう売れたんだから必要ないよ」と言い捨てて去る。それからも観光コースをあれこれ回り,すっかり暗くなってから宿に戻る。

 寝る前にランプの包みをほどいた私はナイトキャップのウィスキーを舐めながら,なるほど,見れば見るほど絵本の挿絵にそっくりだと思う。そしてなにげなしに,眼鏡を拭くための布でランプの側面を磨いてしまう。魔神が留守の魔法のランプはあっという間に私を吸い込む。

 翌朝,部屋を掃除に来たメイドがランプを磨いてくれて,私はいったん外へ出る。が,私には彼女の願いを叶える能力がないのですごすごとランプに吸い込まれるしかない。


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