2008年度のイグ・ノーベル賞を受賞した著者による,まさしく「予想どおり不合理」としか言いようの無い実験の数々。大笑いし,そしてちょっとだけ我が身を振り返る。
たとえば雑誌「エコノミスト」(毎日新聞社が日本で出してる「週刊エコノミスト」ではなくて英語の奴ね,両者に提携関係があるのかどうか,オレは知らない)の定期購読の申し込み画面には3つの選択肢がある,(1)ウェブ版だけの購読(59ドル),(2)印刷版だけの購読(125ドル),(3)印刷版とウェブ版のセット購読(125ドル)。著者たちはマサチューセッツ工科大学スローン経済大学院の院生100人にこれを見せてどれかひとつを選ばせた。あなただったらどれを選びます?
結果はこう。(1)を選んだのが16人,(2)はゼロで,(3)のセット購読を選んだのは84人…妥当な線だと思う? でもこの実験の目的はMITの院生たちが日本のアベ首相(当時。知らないヒトがいるといけないので解説すると,このヒトはかつて「今年を漢字一文字で表すと?」というマスコミの質問に対して「責任」と答えたのだ。しかも「一文字で」と聞き返されても繰り返して!)より算数が出来るかどうか調べることではない(そりゃ出来るだろ)。
そーではなく,誰も選ばなかった「印刷版だけ」という選択肢を省いた状態で再度選んでもらって結果を比べるためである。すなわち選択肢は2つ,(1)ウェブ版だけの購読(59ドル),(2)印刷版とウェブ版のセット購読(125ドル)。さぁあなた,今度はどっちを選びます?
アリエリー教授は言う。もし人間が,経済学で想定されるような合理的な存在であるならば,この選択肢の変更は学生達の判断になんらの影響を及ぼさないはずだ。だって消した選択肢は,もともと誰にも選ばれなかったんだから…。そーでしょ? けれど結果はそうはならない。
クドいようだが「誰も選ばなかった選択肢が消えただけ」なのに,実に68人がウェブ版だけを選び,セット購読を選んだのは32人に激減してしまうのである。つまりね「エコノミスト」はどーせ誰も選ばない選択肢を画面に出しているだけで,読者の多くにより高い方の契約を結ばせることに成功しているのである。それでて雑誌には「ニンゲンはそんな不合理なことはしない」という前提に立った経済予測などを載せてんだからサギみたいなもんだと思うけど(ここはオレ個人の意見です,為念)。
これはほんの一例である。他にも「過去に自分が下した判断に新たな選択が影響を受けるアンカリングの問題」とか「自分の持ち物を高く見積もる所有意識の問題」など楽しい…楽しかないか,面白い実験がテンコ盛りである。特に「女性がセックスに応じてくれる可能性を高めるためなら『愛している』と言いますか」てな質問に,冷静なときとマスターベーションの最中に答えさせて「性的興奮の判断への影響」を調べる実験は傑作。いつか暇になったらこれに使えるプログラムを書いてみようかしらね。
