〈5〉のゲーム ウルズラ・ポツナンスキ著

 「ジオキャッシング」という遊びがある。簡単に言えば宝探しである。世界中に隠されている宝物(これを「キャッシュ」と呼んでいる)をGPSを使って探す,というもので,発祥はアメリカ。日本にも相当数愛好者がいるらしい。GPSがあるなら簡単に見つかるはずではないか,と思うヒトはこの日本公式サイト(https://www.geocaching.com/play)のタイトルにある動画を見て欲しい。場所はわかっても簡単には見つからないように隠されているのである。

 物語の舞台はオーストリア,ザルツブルグ近郊の牧草地で女性の他殺体が発見される。大手広告代理店に勤めるコピーライターで五日前,会社のパーティーを中座したまま行方不明になっていた。遺体に性的暴行の痕跡はなかったが,足の裏に北緯47°35.285,東経13°17.278 を示すタトゥーが。捜査を担当する女性刑事ベアトリスとその上司フローリンがその場所で見つけたタッパーウェアには,切断された人間の左手が入っていた。

 ジオキャッシングを趣味とする若手刑事シュテファンにより,この犯人が警察に対し死体をキャッシュとして使う「ジオキャッシング」ゲームを挑んでいると理解したベアトリスたちは,左手と共に見つかった次の隠し場所へのヒントとなっている人物を探し始める。クリストフという名前の歌手,目は青,左手の甲に痣があり…。

 警察はまもなく条件に合致する人物を見つける。彼は殺された女性と面識はないし左手の主にも心当たりはないと言うが,彼の生年を元に指示通り計算して得られた座標の場所から今度は右手が発見される。そして次に探すべき人物の条件が。曰く「敗残者,内面と外面の傷,古い紺色のフォルクスワーゲン・ゴルフ…」。

 ジオキャッシングというゲームをけれん味として巧みに織り交ぜながら,しかしミステリとしてはかなり本格的。著者のポツナンスキは長いこと児童小説を書いていたヒトで,本書が初の大人向け小説だそうなんだが,本国オーストリアであっという間にベストセラーになったというのも頷ける。つうか,こんな傑作が2014年に翻訳されてたのか。なんでもっと話題にならなかったんだろ?


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