誰の墓なの? ジェイミー・メイスン著

 うーん,さすがにこの本は読者を選ぶよなぁ。キメテは主人公に感情移入できるかどうか…しないんだったら誰にも(イヌにも)感情移入しないで最後まで読みきれるかどうか,かなぁ。とりあえずあなたがこんな立場に陥ったと思ってみてくだされ。

 あなたは30代半ばの白人男性。アメリカのどっかにある(という設定の)スモールウォーターという街の住宅地に一軒家を買って住んでいる。数年前に7年間連れ添った妻を亡くしたのだが,それが彼女に離婚を切り出された直後,まだ誰も知らないうちだったため,裕福な彼女からいくばくかの遺産を受け取ることができ,その金で買った家である。

 実は17ヶ月前,あなたはこの家の裏庭に死体をひとつ埋めた。それは妻の死後に知りあった…知りあってしまったとんでもないオトコのもので,気の弱いあなたはそいつにさんざんいたぶられ馬鹿にされいいように利用されたあげく,ついに堪忍袋の緒が切れて…というよりはもののはずみで男を殺してしまったのだ。

 その日以来彼が埋まっている裏庭の一角が気になって仕方がなく,裏庭どころか庭のすべてをほったらかしにしてきたのだが,逆にそこまで荒れ放題では「なにかあるのではないか」と疑われるような気持ちが芽生え,一大決心して前庭だけ体裁を整えてもらうために造園業者を雇った。

 と・こ・ろ・が。

 こともあろうにその業者が,前庭の窓の下にある花壇から誰かの白骨死体を掘り出しちゃったのである。もちろん場所が違うからあの男ではない。警察によれば死体はあなたがこの家を買う前に埋められたもの,あなたの前にこの家に住んでいた男が妻とその浮気相手の若い男を殺し,2つある花壇の下に一体ずつ埋葬したらしいというのだ。

 それで済めば良かった。が,警察は当然ながら死体の身元のみならず犯行現場まで捜査する。拒むわけにもいかない家宅捜索と鑑識作業の結果,見つかった男女とは違う3人目の,そう,あなたが殺したあの男の血液の痕跡も出てきてしまう。もうひとつ死体があるかも知れない,警察がなお本格的な捜索を始めると言った前夜,あなたはひそかに裏庭の死体を掘り出し別のところへ移そうとするのだが…。

 どうです。もちろん誰もこんな立場に追い込まれたくないと思うけれども,追い込まれちゃったらどうなるか。こういうなんつかアメリカ的な,死体もある種のガジェット扱いしちゃうようなブラック・ユーモアに抵抗のない人にはオススメ。まぁ,ちょっと文体が独特でとっつきづらいとこあるんだが,それも「読者を選ぶ」とこつうことで。


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