呪いの研究〜拡張する意識と霊性 中村雅彦著

 愛媛大学で社会心理学を教えている著者の中村センセイはいわゆる二足のわらじ,学者であると同時にちゃんと資格を取った神主(神職というのが正確らしいが)でもあり,主に「呪術的実践と神道的世界観の心理学的研究」というのを行っている…のだそうである。

  映画「死国」(長崎俊一監督)を観たヒトならわかると思うが(観てない? 観なさい),四国には伝統的に市井のシャーマン「拝み屋」が多数在住し,占い,まじない,加持祈祷などを行っている。彼らの役割,社会的位置などを文化人類学の観点から構造主義的に分析した研究は多い。が,それらの研究の多くは,基本的に彼らの行為の真偽や効果についての言及は避けてきた。

 本書はそれらの研究とは逆に,呪術や託宣,霊視や念力などの効果を現実のものとして認め,それが機能する心理的世界の模式を提起しようと試みたものである。

 多少牽強付会的な印象もあるが,ユング呼ぶところの「ヌミノーシティ(霊性体験)」を,多くの場合その励起要因となる宗教性から切り離し,逆に全ての宗教がこの「霊性」の顕現に他ならないとする論理展開(つまりカミさまがいるからお告げがあるんぢゃなくてお告げが来るのでカミさまがいることになるってこと)は興味深く,世界観としても面白い。

 また,この現象(というか能力というか病気というか)を悪用しての呪詛やオウムのような人心収攬が行われる危険性についてもキチンと言及しており,所謂「トンデモ本」ではない…いやトンデモ本を楽しもうと思って読んでも十分楽しめるし……とにかく,誰かを呪いたいヒト,誰かに呪われてると心配なヒト必読(?)の奇書であります。是非ご一読を。


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