作者ホロヴィッツ自身が本人として登場・叙述する「ホーソーン^ホロヴィッツ」シリーズの第5弾である。これまでの作品の評判がよく(小説の中ではまだ4作目は出帆されていない)、エージェントのヒルダはさらなる出版契約を獲得。ホロヴィッツに「年末までに第5作を書き上げてね」と無茶を言う。
この辺がこのシリーズの最も面白いところなんだが、この物語の世界でホロヴィッツが書いている「ホーソーン」のシリーズは実録なので(第4作ではホロヴィッツ自身が殺人の容疑者として拘留されたりしている)、「そんなことを言われても年末までに小説になるような事件が起きてくれる保証はないぢゃないか!」となるのだ。
結局彼は、自分と知りあう前にホーソーンが解決した「興味深い事件」の資料を受け取って、それを頼りに5年前にリッチモンドの高級住宅地で起きた殺人事件を書くことになり…という顛末が、開巻早々いつもと違う三人称記述でこの住宅地の成り立ちとそこに住む人々の人間関係を示したあとで語られる仕掛け。
テムズ川を背にした閑静な住宅地リヴァービュー・クロース。そこで一番大きな屋敷に住むヘッジファンド・マネージャーがクロスボウで殺害される。施錠された門と塀で外部からの侵入を許さない敷地。そこには全部で6軒の家が建ち、被害者の他著名なチェス・プレイヤー、医師、歯科医、引退した修道女のコンビ、引退した弁護士が住んでいる。一番の新参者だった被害者はその傲慢なふるまいで皆に嫌われていた…。
ここにこの当時ホーソーンの助手を務めていたダドリーという元警官の謎(なぜホーソーンはダドリーとたもとを分かったのか? ダドリーは今どこにいるのか?)をからめ、ホロヴィッツの筆が冴える。ただ一個だけ、ホーソーンは最初から犯人が分かっていたらいつものように書けないだろう、と資料を小出しにするのだが、5年前の高級住宅地での猟奇殺人だったらWebを漁れば結末はわかるだろと思ってしまう。
だけどホロヴィッツはそれをしない。そんでそこにもうひとつ読者への罠を仕掛ける。やるよなぁ。
