第二次世界大戦中の1942年1月20日。ベルリン郊外、ヴァン湖畔(ヴァンゼー)にある親衛隊所有の屋敷で一つの会議が開かれた。開催場所の名前を取って「ヴァンゼー会議」と呼ばれる。議題は、これに先立って総統ヒトラーが命じた「ユダヤ人問題の最終解決」に向けて、ドイツ本国およびその占領地から駆り立てたユダヤ人たちの移送と特別処置(つまり殺害なんだが)を関係省庁がどのように分担・実行するか。
この会議以前にもユダヤ人の収容・虐殺は行われていたが、ドイツ政府はその進捗に不満を持っていた。そして遅れの要因が関係する官僚組織間の競合、協調関係の欠如であると認識、各省庁のトップを集めて「ユダヤ人問題の最終解決」が国家にとっての最優先事項(!)であることを確認するとともに、その実現に向けて幹部たちのコンセンサスを確立しようとした。
議事をとりしきったのは国家保安部部長にして親衛隊大将でもあるラインハルト・ハイドリヒ。親衛隊からは彼の他、オットー・ホフマン、ハインリヒ・ミュラー、カール・エバーハルト・シェーンガルト、ゲルハルト・クロップファー、アドルフ・アイヒマン、ルドルフ・ランゲ、エーリヒ・ノイマン、フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリツィンガー。こう並べるとさしてナチスに詳しくないオレでも知ってる名前があるな。加えて外務省、法務省、内務省、州務省の国務長官たち。
映画(ドイツではTVドラマとして放送されたらしい)はこの会議の議事録をベースに、現在も残る同じ建物で撮影された。もちろん文字として残っているだけのものを実際の議論・肉声として再現するに当っては、監督の演出や俳優自身による演じる人物に対する理解など多くの要素がそこに加わるものだが、画面から醸し出されるリアリティは圧倒的、重苦しくそして恐ろしく、きっとこうであったろうなと思ってしまう。
十数人の男達が一つ部屋の中で延々と議論を続けるだけ(まぁ途中、休憩と称してコニャックなど飲むシーンもあるんだが)。なんのスペクタクルもなくほぼ舞台劇のように進行する映画にこれほど引き込まれるのは、のちにニュルンベルグ裁判で証拠として取り上げられたこの議事内容の重大さ故ではあるが、観て良かった。いや、できれば劇場で観たかったな。