タイトルで誤解されそうだが,あの永井豪原作のアニメ「鋼鉄ジーグ」のイタリア版リメイクではない。なんつかアリモノの言葉で言えば,あれへの「オマージュ」ということになるんだろうが,ちょっとニュアンスが違う。ま,その辺は観てご自分で判断していただきたいと。
舞台はテロと組織犯罪が渦巻く大都会ローマ。この街の底辺でうごめくケチなちんぴらの一人エンツォ(クラウディオ・サンタマリア)は盗みを働いて追われているさなか,足を踏み外して市内を流れるテヴェレ川に。水底に沈められていた放射性廃棄物入りのドラム缶に嵌まって出られなくなる。
命からがら脱出して郊外の街トル・ベッラ・モナカにあるアパートに戻ったが体調がおかしい。震えと咳が止まらず,痰を吐いたつもりの手のひらは真っ黒。しかし医者にいく金もなく,ただ寒気と不安にさいなまれながらベッドで横になっているしかない。
翌朝,なんとか回復したエンツォは「オヤジ」と慕う盗品の故買屋・セルジョ(ステファノ・アンブロジ)のところへ。セルジョに誘われて運び屋からブツを受け取る仕事に同行するが,イタリア語の話せない運び屋の体内でヤクの袋が破れて修羅場に。
どうせ助からないから殺してヤクを取り出そうとパニック状態の運び屋に近づいたセルジョは隠し持っていた銃で撃たれて絶命。逃げようと後ずさったエンツオも肩を撃たれてビルの9階から転落,一巻の終り…かと思いきや,何事もなかったように立ち上がる!
家に戻ったエンツオは撃たれた肩の傷が早くも治癒しかけていることを確認,リクツは解らないがあの放射性廃棄物によって自分がとんでもないパワーを身につけたことを確信する。さっそくその能力で道端のATMをたたき壊し大金を手に入れた彼は冷蔵庫を好物のヨーグルトで一杯にして満足するのだった。
同じ頃,組織のボス,ジンガロ(ルカ・マリネッリ)は,セルジョが運び屋から受け取ったヤクを持ち逃げしたと判断。一人娘のアレッシア(イレニア・パストレッリ)から居所を訊き出そうと部下を引き連れてやってくる,が,少々知能に問題がある彼女は子供の頃から「鋼鉄ジーグ」に夢中。大人になった今もアニメと現実の区別がついておらず要領を得ない。
セルジョの最後を目撃した手前,見て見ぬふりもできないエンツォ(が,もちろん真実を言って通じる相手でもない),なんとかジンガロたちからアレッシアを引き離すが,彼のパワーを目にした彼女は彼をヒロシと呼び,帰ってこない父はヒミカに攫われたに違いない,父を救い出してくれと懇願する。
そうこうするうち防犯カメラに捕えられたATMをたたき壊すエンツォの姿(一応フードで顔を隠してはいるが)がYouTubeにアップされて大騒ぎに…とまぁ,こういう話なんだが,イタリア本国では「ついに我々の国にもスーパーヒーローが誕生した」と大評判で,2016年のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリア版アカデミー賞)では最多7部門を受賞している。
あ,もうひとつこれを書いておかなくちゃ。「皆はこう呼んだ,鋼鉄ジーグ」というのは所謂「邦題」ではなく「原題」である。ちゃんと日本語でこう表示される。イタリア人観客が読めようが読めまいがこれが長編デビュー作の監督は知ったことぢゃなかったらしい。天晴れである。