預言者 ジャック・オディアール監督

 2010年のフランス映画祭で上映された傑作,DVDが出てるのを知ったのでご紹介。

 警官に対する暴行の容疑で逮捕された19歳のアラブ系青年マリク(タハール・ラヒム)。裁判で6年の刑を宣告されて刑務所に入る。刑務所内の二大勢力はコルシカン・マフィアとアラブ系ムスリムたち…人種こそアラブだがほとんど文盲でコーランも知らない彼は当然のように周囲から浮き上がり,コルシカ人グループのボス,セザール(ニエル・アレストリュプ)に目をつけられる。

 セザールの部下に拉致され,裁判での証言のために一時収監中のヤクの売人レイェブ(ハキム・ヤコビ)を殺すように強制されたマリクは,看守にこれを訴えようとする。が,元から看守はコルシカ人に買収されており再びリンチを受けることに。結局殺人を実行させられた彼は,その後もコシシカ人たちのパシリとしてこき使われ続ける。

 やがて読み書きを覚え,セザール達のコルシカ訛りも理解できるようになったマリクは,セザールに命じられ,彼の「仕事」をするための「外出」を許可される。仕事自体は「伝言」や「確認」に過ぎなかったが,この機に乗じて「自分の商売」の足がかりを掴んだ彼は,心の底にある野心を芽生えさせていた…。

 かつて米HBO製作の「OZ」という刑務所を舞台にしたドラマがあったが,あのドラマの舞台をフランスに移し,登場人物のうちの一人にフォーカスをあてたらこんな感じになるだろうと思われるプロット。ある意味「教養小説」っぽい見方ができるところが皮肉か。「一人前の犯罪者」となっていくのが「成長」ならね。

 監督はあの「リード・マイ・リップス」のヒト。この映画のために本物そっくりの刑務所セットを設営,セザール役のニエル・アレストリュプ以外はほとんど新人か無名に近い役者を使い,ハンディカメラを多用してまるでドキュメンタリーのような印象を与える手腕は見事。ノミネートされていたアカデミー外国語映画賞は惜しくも逃したがこれは必見だと思った。


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