復活

 この春に急死した親友の奥さんからメールで連絡が入る。

「主人が戻って来て,あなたに逢いたいと申しております。是非一度お越し下さい」

 通夜葬式に出席したどころか出棺に立ち会い骨も拾ったのでそんな馬鹿なと思うものの,生前からよく思いがけないことをする男であったからもしかしたら,という気分もあり,ぽっかりと時間が空いた週末に出かけてみることにする。

 玄関のベルに応えて出て来たのは身長2mを超えるだろうアフリカ系の大男,しかし顔を観た瞬間にこれが親友本人であることがわかる。

「まだ慣れなくて日本語がうまく使えないので,メールも私が書いたんです。驚きました?」

 彼の向こうから奥さんの声がする。

「では英語ですか?」

「いえ,それがフランス語なんです」

 申し訳ないがフランス語ではお手上げだ。実は仏文科だったという奥さんの通訳で話すことになる。要約すると彼は,日本で死んだ日の同じくらいの時刻に,パリの雑踏のなかを歩いていて突然自分は自分であると気づいたらしい。

 それから日本行きの算段を始め、ようやく3週間ほどの休暇を取って来日した。休暇明けにはまたパリに戻らなければならない。あちらにも一緒に暮らす家族がいてなかなかタイヘンなんだと屈託なく言う。

 夕食には彼が持参したというフランス・ワインが開けられる。その香りと味を楽しみつつ,しかしオレはやっぱり日本のどこかがいいなぁと考える。 


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: