四色問題 ロビン・ウィルソン著

 知ってるヒトも多いと思うが,四色問題とは「4色あればどんな地図でも隣り合う国々が違う色になるように塗り分けることができる」という……なんつうか経験則の「証明問題」である。

 これ,一見簡単そうに見える。いや,オレが夜郎自大にそう思うだけでなく,150年ほど前に南アフリカの大学の数学教授だったフランシス・ガスリーがこの問題を提起して以来,多くの数学者がそう思って(もちろんオレがそう思うのとはずいぶんレベルの違う話だが)挑戦し,その秘められた難解さに玉砕してきたのである。

 この問題は1976年,オレが高校生の時にアメリカのケネス・アッペル,ヴォルフガング・ハーケン,ジョン・コッホによって証明された。だから現在は「四色問題」ではなく「四色定理」と呼ぶのが正しい。の,だが,その証明が人手では検証不能なほどコンピュータの計算能力に依存しており,果たしてそれを「証明」と呼んでええのかという哲学的議論が…。

 本書は,その「問題」の「誕生」から「証明」までを人物ドキュメンタリー風に記述しながら,素人のオレにもちゃんとその証明の要諦が理解できるように書かれたスバラ式の解説書なのよ。

 いや実際,何年か前に読んだ「フェルマーの最終定理」(サイモン・シン著)なんかは,途中の「テレスコがステレンキョウであることを証明できれば最終定理は証明できたことになるのである」てな論理展開のところで理解が追いつかず,最後は「とにかくジンクピリチオンで歯は白くなるのだ」と信じるしかない,という羽目に陥ったのだ(オレだけ?)。

 もちろん,そりゃ本のせいではなくて問題の質だ,という気もしないでもないが,こっちの問題は最後の最後まで「どういうロジックで証明が進行しているか」が解るのだ。楽しいし,嬉しい。数学が好きなヒト,数学が好きだったヒト,これから数学を好きになりたいヒトに強く,そうでないヒトにもそれなりにお勧め。

 と,ここまでは2005年に本書を読んだ時の弁。その後,ちょうど日本で出版準備たけなわの2004年,ジョルジュ・ゴンティエが定理証明支援系コンピュータ言語Coq(というのがあるのだ,さすがにオレもいじくったことないけど)を用いて証明をよりシンプルにした。とは言えいまだ,コンピュータなしで証明不能という事実に変わりはなく,「証明されたのは認めるけどなぁんとなく釈然としない『問題』」であり続けている。2017年、文庫本も出ました。


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: