コンビニで弁当を買い1万円札を出したとき,その中央の透かしの部分にボールペンで「16」という数字が殴り書きされているのに気付く。弁当が店の電子レンジの中で回転している間その「16」のことを考える。誰かなんのために,1万円札に「16」なんて書く?
手近に何も書くものがないとき,仕方なく1万円札を使うことはあるかもしれない。普通ヒトが番号をメモする理由はなんだ? ヒトは意味のない数字の羅列を覚えられない時にメモをとる。例えば電話番号,あるいは暗証番号……。「16」という数字の桁数はメモを取るには少なすぎる気がする。「16」なんて数字を覚えられないやつがいるか?
自分の心覚えでないとすれば,誰かへのメッセージか? なんとかかんとかは「16」だぞ,と伝えるためにそれを1万円札に書いてヒトに渡す……。それはどんな状況だろう?
チンと音がして弁当が温まり,お仕着せの制服を着た店員が訓練された笑顔でプラスティックの袋に納めた弁当を差し出す。1万円札に書かれていた数字のことは瞬時にして意識の外に消え失せる。
数日後,友人と飲みに行った焼鳥屋での支払いの際,自分の出した5千円札に「17」と書いてあるのを見つけ,不思議な因縁を感じる。それからも,間隔や札の金額はまちまちながら,「18」,「19」,「20」と記された札が。内心少々気味が悪くはあるが別に実害があるでなし。人に言っても笑われるだけだと思って黙っている。
「20」が現れた数ヶ月後,映画館で払おうとした千円札に「22」を目にする。それ以来,人生における重要ななにかの機会を逸してしまったような気分がぬぐえない。