「公正」とか「正義」とか、昨今のニッポンでは正面切って使うとなんだか冷笑されるようなコトバだが、とは言えそれらがちゃんと機能しないと「社会」は成り立たないし、その構成員である我々も実はそのことはよく分かっている。そうでなければ昨年(2023年)末から今年初頭に掛けての政府与党の派閥裏金問題はこれほど騒ぎにならなかったはずだ。
それでもまだ、政権党を擁護するヒトもいる。「政治には金がかかる」という言い草はミミタコだし、「野党だっておなじようなことをしてる」と子供の口喧嘩みたいなことを言うヒトも。そのなかに「正義の反対は別の正義」という言い方があって、そのシニカルな響きと相俟ってX(元Twitter)辺りではちょっと支持を集めてたりする。
この本は,ジョン・ロールズ、リチャード・ローティといった比較的最近のプラグマティズム系哲学者(つっても二人とも故人だけど)の分析などを補助線に、この「正義の反対は別の正義」という、ちょっとカッコいいけど実は「思考停止ぢゃんそれ」と思われる考えを分析。「公正」「正義」など、最近の流行りだと「主語のでかそうな」コトバを正しく使うにはどうすればよかろうか、ということを考えるもの。
語り口は「ですます」調で優しいが、内容は結構形而上学的。しかも誰かの説が紹介されてこっちが「あ、それ妥当ぢゃん」と思っているとすぐにそれに対してのまたなんとも効果的と思われる反論が紹介されたりしてややこしい。読んでいるうちにあの橋本治さんを思い出したよオレは。
というわけでなかなか面白い読書ではあったんだが、一番の問題はこの本を読んでこれらのコトバを正しく扱えるようになって欲しい最右翼のヒトビト(具体例はあげない。みんな自分が「ああ、ああいうヒトね」と思うヒトがいるでしょ?)は金輪際こんな本読まないだろうってことなんだよな。