大好物の海洋パニックもの! と思って観に行ったら実話をもとにした災害モノで,当然ながら逃げ惑う美女のドレスが乱れたり尊大な大金持ちの本性が露になったり希代の詐欺師が改心したり意外な人物が皆の命を救うような活躍を見せたり…ということはないのだった。が,それはそれ,見応えは充分。
元になった実話を押さえておく。2010年4月,ルイジアナ州ベニス沖約80キロの海上から1,522mの海底にパイプを降ろして油田掘削作業を行っていた施設「ディープウォーター・ホライズン」(この施設名がそのまま映画の題名になっている。邦題もこのままで良かったんぢゃないかと思うけどな)で,技術的不手際から天然ガスが逆流,爆発,折れた掘削パイプから大量の原油がメキシコ湾に流出した。
映画はこの施設を稼働するトランスオーシャン社のエンジニア,マイク・ウィリアムズ(マーク・ウォールバーグ)の自宅での目覚めから始まる。妻フェリシア(ケイト・ハドソン),幼い娘シドニー(ステラ・アレン)との他愛もない会話のあと,マイクは3週間にわたる(はずだった)の海上勤務のため家をあとにする。
彼と同じように施設主任ジミー・ハレル(カート・ラッセル),ドリリング・オペレイターのアンドレア・フレイタス(ジーナ・ロドリゲス)らスタッフがベニスの港に集結。ヘリコプターに乗ってディープウォーター・ホライズンに到着する。この時点で掘削計画は予定から一月以上遅れており,親会社BPの幹部ヴィドリン(ジョン・マルコヴィッチ)は安全確保のためのセメント・テストを省略することを決定していた。
これを知ったジミーは当然ヴィドリンに詰め寄るが,巨大資本の論理を振りかざす彼は意に介さない。テスト要員が既に本土に帰されてしまったこともあり,不承不承ヴィドリンの提案する計画変更を了承する。が,その晩,ジミーが食堂で無事故記録の更新を祝う記念品を受け取っている最中,海中深く異変が始まっていた…。
その場にいるのが全員施設の関係者ということもあっていわゆるグランドホテル形式のパニック映画みたいな「人間ドラマ」の要素はないが,とにかくその事故,爆発,火災の凄まじさを再現した映像は圧巻。この事故で帰らぬ人となった11人の名前と写真が流れるエンドロールを観ながら,いつか日本でもこんなふうに福島第一原子力発電所の事故に関する映画が作られることがあるのだろうか,とぼんやり思った。