逢ったこともない男の葬式にでかける。会場に着くと人影もまばらで,実際の年齢より老けて見える未亡人がポツネンと立っている。
「このたびは誠に御愁傷さまで」
とあいさつをすると,未亡人はじっとわたしの顔をのぞきこみ,やにわに叫び出す。
「この男よこの男が主人を殺したのよ,この男よ誰かつかまえて!」
いきなりのことなのですっかり面喰らってしまい,その場に立ち尽くして非難の言葉を浴びている,と,墓石の後ろからクマが二頭這い出して来て,未亡人を両側から抱きかかえて言う。
まずは灰色がかった方,
「またですか奥さん,悲しいのはわかりますがいいかげんにしなさい,おたくの御主人は殺されたのではなくて脳溢血でなくなったのです」
続いてわたしの方を見て黒い方が,
「びっくりなさったでしょう,気が立っているものですから許してあげてください」
わたしは二頭のクマの出現にあぜんとしているが,できるだけそれが当然であるかのように振る舞おうとする。
「そう,あんまり突然だっから無理もありませんよね」
「そうなんですよ,突然でしたから」
灰色のクマが突然自分の額を叩く。
「あ,もうしおくれました,わたし故人の縁者でウラジーミルといいます」
それでは黒い方はエストラーゴンで二人してゴドーを待っているのだろう,とわたしは考える,が,黒い方は未亡人にかかりきりで名乗らない。わたしは彼の名前が知りたくてたまらなくなりウラジーミルに訊ねる。
「あちらの黒いかたは?」
「ああ,あれは染太郎です」
「は?」
「染太郎といいます,なにか?」
わたしはなんだか二頭のクマに比べて自分がひどく俗物のような気がして黙り込む。向こうの方で未亡人が染太郎の毛むくじゃらの腕を逃れ,あらたな来客を殺人犯人として非難しようと走っていくのが見える。