2009年のカンヌ映画祭で,遂に,と言うべきだろうなやっぱり。パルムドールを獲得したミヒャエル・ハネケ監督作品。
時は1913年,場所は北ドイツの小さな村。道にはニワトリが放し飼いされ,夜の明かりはロウソクかランプという暮らし。7月のある日,村に一人しかいないドクター(ライナー・ボック)が落馬して大怪我をする。自宅前の木と木の間に針金が張られており馬がそれにつまづいたのだった。
翌日,男爵家の納屋で小作人(ブランコ・サマロフスキー)の妻が腐った床を踏み抜いて転落死。これを男爵(ウルリッヒ・トゥクール)の責任と憤る長男は収穫祭の日に男爵のキャベツ畑を荒らすものの生活の糧を男爵家に頼っている父親に叱責されて自首。しかしその夜男爵の長男の行方が分からなくなり,やがて傷を負って発見されたことで男爵夫人は子供を連れてイタリアに去る決心を…。
そんななか,村の学校で子供たちを教える教師(クリスティアン・フリーデル)は17歳の男爵家の乳母エヴァ(レオニー・ベネシュ)に一目惚れ。事件のあおりで解雇された彼女を慰め,彼女と結婚することを夢見るのだが…。平穏な村に相次いだ不気味な事件の犯人は不明のまま,事件にまつわる悪意ある雰囲気だけが村を覆い,人々の,そして子供たちの間に蔓延する暴力や欺瞞が顕現していく。
ハリウッド的な「視覚的情報を鵜呑みにさせる映画」を嫌う監督は,現代的なカラーの機材(モノクロ用の撮影機材ではロウソクや石油ランプを照明として撮影できるだけの感度がないのだそうな)で撮影した映像をモノクロにデジタル変換,観客とスクリーンの間に距離をとり,その間隙に人間存在の深遠を表出せしめる2時間24分。いや,全然長くありませんよ。