オーストリア,ウイーンで保険調査を専門に請け負っているフリーランスの探偵ホガート。ある日,得意先である保険会社メディーン&ロイドのウィーン支社に呼び出され,父と親交のあった支社長ラストからチェコのプラハに出向いての調査を依頼される。同社が保険を受けた絵画がプラハで火事に遭い焼失し,その調査に赴いた美術専門の調査員アレクサンドラ・シェリングが行方不明になったというのだ。
シェリングの最後の連絡は「事件の真相は判明した。おそらく絵画も無傷で取り返せるはず」というもの。早速プラハに飛んだホガートは,彼女と同じホテルに宿泊,誰彼となく彼女の写真を見せてその足取りを洗う。彼女がタクシーで出かけた不可解な場所,ベルナルディ小路という娼婦街と,ビヴォンカ通りというこれと言って何もない町…。
手詰まりになった彼は,件の絵画に並外れた執着を持っていると評判の暗黒街のボス,ウラディーミル・グレコを訪ねる。当然ながら歓迎はされず,グレコのこわもてのボディガード,ディミトリにしたたかに殴られるが,居合わせた女探偵イヴォナと知りあい,いろいろと情報を仕入れることができた。
彼女によればプラハでは今年の初めから,拉致した被害者を殺害後,その首と手を切り落とし,ビロードに包んで放置するという猟奇的連続殺人事件が起きている。彼女はその最初の被害者の夫からの依頼で事件を調査中。グレコの屋敷にいたのは彼の家のメイドがその何人目かの被害者として発見されたためだった…。
イヴォナの家で話がその辺りまで進んだところに突然窓ガラスを割って飛び込んできた火炎瓶。自分のコートをイヴォナにかぶせ,外に飛び出したホガートの肩を銃弾が襲う。果たして彼はどんな虎の尾を踏んだのか?
うーん,読み終えて冷静に振り返れば「首と手首を切り落とす」あたりに事件をことさら猟奇的に印象づける以外のなんの意味もないような気がするが,絵画焼失と連続殺人という二つの謎を両輪としてサスペンスを盛り上げる手管は見事。ホンスジには関係ないが(いや,ちょっと関係はあるか),主人公の懐古趣味のディテールが実にオタクで楽しいのもポイント。
