王様のためのホログラム トム・ティクヴァ監督

 「アラブの王様に3Dホログラムシステムを売りに行く」という話だと思って観に行ったのだが違うのである。いや確かに主人公は,「アラブの王様に3Dホログラムシステムを売りに行く」のだけど,この映画はそういう映画ではないのだ。なんてったら通じるかなぁこの微妙なズレ。

 主人公のアラン・クレイ(トム・ハンクス),かつては米国有数の自転車メーカーの重役だった。が,株主からのコスト削減要求に堪え切れず,生産拠点を中国に移したのが大失敗。中国の提携先はアランの会社の技術やノウハウを見事にパクって廉価な競合製品を発売。

 アランはクビになり,妻にも見限られて離婚。どうにかツテを頼ってボストンの新興IT企業に営業担当重役として潜り込み,与えられた最初の仕事がサウジアラビアの王様に自社開発の3Dホログラム会議システムを売り込むこと。彼に同情的な娘キット(トレイシー・フェアウエイ)とのビデオチャットを楽しみに,勇躍砂漠の国に降り立ったアラン。

 ところが初日,現場へ向かう送迎バスに乗り遅れ,呼んだタクシーの運転手ユセフ(アレクサンダー・ブラック)は妙に馴れ馴れしい。やっと着いてみれば先乗りスタッフ達が作業しているのはオフィスとは名ばかりのテント。WiFiが繋がらない,ランチを食べるところもない…。

 なんとかしようと王室側の担当者を訪ねるが受付の女性は「今日は不在,明日は来ます」とだけ(それが毎日!)。担当者にさえ逢えないのに,売り込み相手の国王に謁見できるのはいつのことか。混乱とプレッシャーの中,遂にアランは倒れてしまい,病院へ。そこで出会ったのがこの国では希有と言っていい女性医師ザーラ(サリタ・チョウドリー)だった…。

 ビジネス・アドベンチャーかと思えばさにあらず(自分で書いてて思うが「ビジネス・アドベンチャー」ってつくづく怪しい言葉だな),カルチャーギャップが主題なのかと思えばそれもエッセンスのひとつに過ぎない。最後まで観るとこれつまり「文化の違いを超える普遍的な愛と救済の物語」なんである。


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