江戸の閨房術 渡辺信一郎

 オレが思春期から青年期のころ,奈良林ナントカというお医者さんの書いた「HOW TO SEX」という本がベストセラーになり,パチンコ屋にまで景品として置いてあったりしたことがある。ホントだよ。だってオレ,その本をパチンコで取ったもの。

 この本はつまり江戸時代に出版されたあの類いの本,HOW TO SEXならぬ色道指南書をひもとき,挿し絵入り(この挿し絵がやばいんだよ,だから)でその記述のあれこれを紹介しつつ,江戸時代,日本がこの分野において世界の先進国であったことを示そうという,なんつうか実に平和的国威発揚路線の書物なのである。

 例えば希代の色男・在原業平が三千余人の女性と接した末に著したという触れ込みの「房内戯草」にある「玉茎大小善し悪しの事」の一節,「あまりに大きなるは,味良きものを大口に喰い,味を覚えざるが如し。又大きに精強き物を好むは,下品の女也。必ず諸病起こりて短命する也」。

 また例えば「好色旅枕」にいう「吸口軒」すなわちディープキスの説明,「女にもつれ掛かり,好色の心地よき話など物語し,その後口を吸ふべし。此宴を楽しむといふとも,男の舌を女に吸わすることなかれ。女の舌を出ださせ,男の口に取り込み,歯の触らぬやうに唇にて女の舌を扱き,ねぶるべし。なにほど弱き腎虚の女なりとも一臓動くが故に,淫念自づから萌すなり」。

 女性の側からの記述もある。「新撰古今枕大全」にある女帝・皇極天皇の言(もちろんフィクションだが),「暫く話して心の赴く時分に,玉門の中へ指を入れず,さねがしらに少し唾を付けて徐々と弄はるるは,誠にどふも言はれぬ良い気味なものなれども,是ほどまでに心を尽くす男は稀なり」と……。

 この他,新婚初夜の処女の心得から夜這いの手順,衆道の開祖である(ほんまかいな)弘法大師が伝えた肛門性愛の秘伝から肥後芋茎の正しい用法などなど人前では話せないが知ってはおきたい知識満載の一冊,この値段は安い。ただし,覗き込まれると大層まずい挿し絵とかが満載なので,電車やバスの中では開かないほうが吉であろう。 


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