携帯電話が鳴りそれを手に取った一人の女が喋り始める。意味を知らない異国語の歌のような口調。
「はい,青は一本,黒は二本,白は三本,場所は1か2か3か3a,または9から12のどれか」
それきり彼女は喋らない。一言も言わずに相手の言葉を待つ。これに返事ができない者は結局客ではないし,したがって彼女に収入をもたらさない。
指示されている通りに30秒,きっかり待って返事がなければ電話を切る。客が答えればその内容を別の携帯の持ち主に伝える。「黒を3a」とか「白を12」とかの短い会話。それが何を意味するか薄々気づいてはいるけれど,知らない方が利口だということも知っている。
彼女は電話を切る。次の電話が鳴る。
「はい,青は一本,黒は二本,白は三本,場所は1か2か3か3a,または9から12のどれか」
相手の返事を待つ30秒の間,彼女は窓のない部屋の中で今年最後に羽化する蝶のことを考えている。