要求

 ある朝,世界の主要都市の上空に円盤が現れ,テレビの電波をジャックした宇宙人が降伏を呼びかける。

 ある国で血気に逸った若いパイロットが上官の制止を振り払って迎撃に向かうが,数十億円の最新鋭ジェット機は閃光とともに消えてなくなり,パイロットだけがパラシュートもないのにゆっくりと地上に降ろされる。医師が駆け寄って調べるが,彼にはかすり傷ひとつない。

 ある国の為政者が核ミサイルの発射ボタンを押す。これまた円盤の目前で閃光と共に消滅し,ほんのわずかの放射線も検出されない。

 無力感に打ちひしがれ降伏した人類に,宇宙人は不可解な要求をつきつける。無駄な抵抗はやめろ,武器の所有・武力の行使を禁じる。早い話が戦争とかせず平和に暮らせ。

 それからはや数十年,上空には円盤が浮かび続け,地球の平和は保たれている。ヒトビトは概ね幸せに暮しており,この安定を「パックス・エイリアーナ」と呼ぶ政治学者もいる。が,実はみんな内心,いまひとつ釈然としないままである。 


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