脳内ニューヨーク チャーリー・カウフマン監督

 監督はあのチャーリー・カウフマン。そう,あの「マルコビッチの穴」や「エターナル・サンシャイン」の脚本家。彼が初めてメガフォンを執ったのがこの,アメリカでは2008年に公開されて,インディペンテント・スピリット賞とかインディワイアー映画批評家協会賞とかそういうマイナー……失礼,ヒトクセもフタクセもある映画賞を8部門受賞,23部門にノミネートされた映画「脳内ニューヨーク」なのである。

 ニューヨーク郊外の街シェネクタディに暮らす劇作家のケイデン(フィリップ・シーモア・ホフマン)。仕事は順調ながら妻の画家アデル(キャスリーン・キーナー)との間は危機的状況。なんとか家族を維持したいケイデンはベルリンで開かれる妻の個展に同行するつもりでいたが,「ベルリンには4歳の娘のオリーブとその乳母マリア(ジェニファー・ジェイソン・リー)の3人で行く」と宣言されてしまう。数週間のはずのベルリン滞在は数ヶ月になり,寂しさを紛らわそうとケイデンは劇場の受付嬢ヘイゼル(サマンサ・モートン)をデートに誘ってみるが,アデルへの未練から最後の一線を越えられない。

 そんなケイデンのもとにある日,別名「天才賞」とも言われるマッカーサー・フェロー受賞の報せが舞い込む。人生に行き詰まりを感じていた彼は,その莫大な賞金を使った前代未聞の演劇プロジェクトを思いつく。マンハッタンの外れに借りた巨大な倉庫の中に「もうひとつのニューヨーク」を作り上げ,そこで役者たちに現実の人物達を演じさせようというのである。そして集まった役者の中から,彼は自身を演じる役者としてサミー(トム・ヌーナン)を抜擢する。

 この破天荒な試みによって,一躍時の人となったケイデンは主演女優クレア(ミシェル・ウィリアムズ)と結婚して一子を設ける。しかし溺愛していた娘オリーブが,アデルとマリアによって全身に入れ墨を施され「芸術作品」として紹介されている雑誌を見て逆上。クレアとの間の子とオリーブの区別がつかなくなってクレアに愛想を尽かされてしまう。そして劇場でも,いつまで経っても稽古ばかりで幕の開かない舞台に役者達の不満は爆発寸前に……。メタがメタを呼ぶ底抜け脱線ラビリンズ映画。面白うてやがて悲しき大傑作であります。


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