コーマン帝国 アレックス・ステイプルトン監督

 まず皆さんにお聞きしたい。この映画の主役であるロジャー・コーマンって知ってますか? いや,もう少しヒントを差し上げようか。ロジャー・コーマンって映画監督,映画プロデューサーなんですけど,彼の作品を1本でも観たことありますか? ない? ないというヒトはこっから先にオレが並べる御託を読んでもなんの益もない縁無き衆生なので本稿は読み飛ばしてくだされ。

 さてこれで書いているのも読んでいるのも仲間内だけになったわけだが(ここ笑うとこです)。

 いやこの映画はすごい,感動的。あのロジャー・コーマン本人が出てきて「B級映画の帝王と呼ばれることについてどう思いますか?」「そりゃ悲しいよ」とかインタビューに答えるだけでも感激なのに,かつて彼が乱造した(2日で1本撮ったという伝説もある)低予算映画からデビューしたスターたち,ジャック・ニコルソン,ロバート・デ・ニーロ,ピーター・フォンダ,デヴィッド・キャラダイン,ウィリアム・シャトナー(これは知らなかったが,キャプテン・カークのスクリーン・デビューはロジャー・コーマンが唯一赤字を出したマジメな映画「The Intruder」だったんだって)ら,あるいは監督たち,マーティン・スコセッシ,ロン・ハワード,ジョナサン・デミらが次から次から現れて懐かしきロジャーとの日々を語るんである。

 これまでに作った映画が400本とも700本とも言われるヒト(ジャック・ニコルソンは映画の中で700万本とか言ってる)なのに,そして「『スターウォーズ』は大嫌いだ,あれは大予算で私たちの飯の種を奪った」という言葉通り,現在のハリウッドのメインストリームであるSFやホラーというジャンルを開拓してきた功労者なのに,そしてその自伝のタイトル「私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか」からもわかるように敏腕プロデューサーでもあったのに,アカデミー,ゴールデングローブといった表舞台では一顧だにされず無視されてきた彼。

 映画のクライマックスはその彼が2009年にアカデミーの名誉賞を授与されるシーン。「今日は妻のジュリーの代理でオスカーを受け取りにきた」というロジャーのスピーチにコーフンするコーマンズ・チルドレンを自称するタランティーノの取り乱し方が笑える。いや,ホロリと来る。あのジャック・ニコルソンは泣くし。

 最近,ココロ温まる映画が少ないとお嘆きの諸兄,是非一度ご覧あれ。


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