海にかかる霧 シム・ソンボ監督

 実話を元にした映画だというので,ちょっとその事件,2001年に起きたテチョン号事件というのを調べてみた。その詳細をここに記す冗漫は避けるが,要は中国からの密航を請け負った韓国の漁船が,海洋警察の取り締まりから密航者たちを隠すため彼らを魚倉に閉じ込め,結果的に25人を窒息死させてしまったというものだ。これはその事件を基にした舞台劇「海霧(ヘム)」の映画化だという。

 韓国南部,全羅南道に位置する都市・麗水(ヨス)。この街を本拠にかつてはアンコウ漁で羽振りの良かったチョンジン号だが,続く不漁と燃料費の高騰に青息吐息。船長のカン(キム・ユンソク)は故障したウインチと調子の悪い冷凍庫を修理しようと金策に走るがまともな金融機関には例外なく門前払いを喰らい,たどり着いたのが中国からの密輸をやっている昔の漁師仲間の事務所。

 そこで持ちかけられたのは,漁と称して出航し,夜間海上で中国船から密航者を乗り移らせて麗水まで連れ帰るという密航の手伝い。一度やれば船も修理できるし乗組員たちに給料も払える…。あくる日カンは船の上で5人の船員に今回の出航の目的が漁ではないことを打ち明ける。露見したら監獄行き必定の計画に動揺しながらも,やるしかないと肚を固める男たち。

 そして決行の夜,悪天候の中チョンジン号の前に現れた中国船に乗っていた密航者たちは数十人。船員の中で一番若いドンシク(パク・ユチョン)は自らの命を危険にさらして海に落ちた朝鮮族の若い娘ホンメ(ハン・イェリ)を救う。服を乾かすため彼女を機関室に連れて行こうとするドンシク,なにをされるかと警戒するホンメ。やがて誤解は解け,二人の間に温もりある感情が芽生える。

 が,嵐のおさまった翌朝,近づく他の船の目から密航者たちを隠すため,カンは彼らを獲った魚を入れておくための魚倉に入れる。しかしその内部は魚の匂いが充満し長く隠れていられる環境ではない。船が去り,出てきた密航者たちの一人が高い金を取っておいてこの扱いはなんだと文句が上がる。ばれたら元も子もないのだ,と癇癪を起こしたカンは彼を執拗に殴り海に投げ捨てる。「きさまらの命はオレが握ってるんだ」と。

 そこに近づく海洋警察の監視船から連絡が。ドンシクの心遣いで機関室に隠れたホンメを除く密航者たちは再び魚倉に。やってきた旧知の役人キムはカンと密輸業者の関わりを知っており,出された酒肴をあおりつつ言外に賄賂を要求,なかなか腰を上げようとしない。そうこうするうち,魚倉から不穏な物音が…。こっからの展開はちょっと書けない。いや是非観てくだされ。韓国での公開6日で100万人を動員しただけのことはあります。すごかった。


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