先日X(旧twitter…しかしこの改名って意味があったんだろうか?)で友人が「有名女装男」と言う言葉を使っていて、反射的に「ヤマトタケルのことか?」とコメントしてしまった。
アタマにあったのはご存知景行天皇の皇子ヤマトオウス(オグナとも)が女に扮してクマソの長をたぶらかし、その命を奪って「タケル」の名を贈られる、あのハナシだ。あとから元の記事を参照すると友人が言及してたのは「女装して女性用トイレに入る常習犯」のことだった。いや、古代史の英雄に失礼なことをしました。
そこで井上先生のこの本である。先生によれば「女装して色仕掛けで敵を油断させ殺害した」なんて人物を「建国の英雄」として祭り上げてる民族は我々ニホン人以外にはいないらしい。オレも子どものとき絵本かなんかでこのクマソ征伐の物語を読み、卑怯とも淫らとも思わず(まぁ子ども向けの本では日本書紀にある「戯れまさぐった」みたいな場面はでてこないけど)かっこいいと思ったもんなぁ。
言われてみれば「女に化けて敵を出し抜く」って英雄は海外にはいないようだ。一所懸命思い出しても西遊記で孫悟空が猪八戒を懲らしめるためにその女房に化けたエピソードくらいしか出てこなかった。「ラーマヤナ」にも「ギルガメシュ」にも「ギリシャ神話」「ローマ神話」にもそういう英雄は出てこない。
対して本邦ではヤマトタケルだけではない。牛若丸源義経は少女の衣装で弁慶をからかい、平家物語では平敦盛が女装して源氏の追跡を躱す。フィクションだが滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」でも犬塚毛野が美少女に扮して敵討ちをするし、詐欺師で泥棒だけど弁天小僧菊之助というのもまたその美貌で有名である。
もちろん「日本建国の立役者であるヤマトタケルが女装者だったなんて」といろいろリクツを捏ねて伝説を否定する学者たちもいた。しかし井上先生、それらの言説をあげつらっては「そりゃムリがあるだろう」と退ける。なんつか我々ニホン人がヤマトタケルや牛若丸の女装者としての活躍に快哉を叫ぶのは、やっぱりそういう「ちょっとエロいハナシが好きだから」なんぢゃなかろうか。そんな意識の変遷を追うなかなかにスリリングな読み物であります。