題名にある通り、この本のテーマは「マイサイド・バイアス」というものなんだが、こいつの定義がなかなか難しい。心理学で言う「バイアス」とは有り体に言えば「認識の歪み・偏り・偏見」みたいなもののことなのだが、これにもいろいろ種類があって、それらは厳密に区別されている(いや、されなくてはならない、と言うのが著者の立場だ)。
よくあるのが「認証バイアス」というやつで、物事を判断するときに自分が「こうだな」と思うとそれを裏付ける情報ばかりを集め、そうでないものを無視するようになる…ニッポンがいい国だと思っているので、過去にさかのぼってもニッポンはヨソの国に対して悪いことなんかしていない!ほらヒャクタ先生の日本史の本にも書いてあるではないか! ってあれである。
著者はこの用語を「推論者に関心の焦点となる仮説があるときに、期待されるエビデンスを探索する」と定義している。「ニッポンはいい国」が仮説、「ヒャクタ先生の日本史の本」がエビデンスである。この時推論者が「ニッポンはいい国ぢゃないかも知れない」というエビデンスをも探索しその意義を正しく認識するのであれば、このバイアスは認知エラーを励起しない。
これと区別がつきにくいが(というか一般には「認証バイアス」と考えられているが)特に「推論者が現在選考している仮説を捨てたがらない心理的傾向」のことを著者は「マイサイド・バイアス」として独立させ,探求しているのである。ここまででまだ最初の数ページなんだけどね。
実にとっつきの悪い本で、上のような厳密厳格な用語の定義を幾重にも積み重ね、リチャード・ドーキンスがその著書「利己的な遺伝子」で提案した「ミーム」まで引っ張り出してこのマイサイド・バイアスの源について考察する第4章までは正直面白くない。でもそこを読んでなかったら、2016年のアメリカ大統領選を語る第5章をここまで面白く読めなかったろう。これホントに興味深い考察である。もっとこなれた本なら広くみんなに勧めるのに。