ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗 円谷英明著

 突然自分のハナシで恐縮だが,ワタシは来年64歳になる。昔ベストセラーになった本に「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ」とかいうのがあったが(読んでないけどさ),ワタシの世代の日本人…日本人のオトコのコなら,人生に必要な知恵のすべて,と言わぬまでも5割くらい,いや,人によっては7割くらいは円谷プロのウルトラシリーズで学んだ,はずだと思うのだ。

 どういう事情だったか憶えていないのだが「ウルトラQ」の第1話「ゴメスを倒せ!」はリアルタイムでは観ていない。第2話「五郎とゴロー」は衝撃だった。伊豆の山中に住むニホンザルの1匹が,甲状腺ホルモンの異常によって突然巨大化する。研究施設の倉庫に眠っていた日本軍の強化食品アオバクルミを食べたらしい。

 巨大化したサル・ゴローは危険視され殺してしまえとの声も。しかし聾唖の青年・五郎との間に種を超えた友情のようなものがあって…。こう書いてみると5〜6歳の子供には結構難しい話のような気がするのだが,ビルの谷間でゴローが眠らされるラストシーンでは滂沱の涙を流しておりました。

 爾来,「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「怪奇大作戦」,長期休暇のたびに編成される再放送…そしてあの「帰ってきたウルトラマン」は確か小学校5年生だったか(そのとき作っていた学級壁新聞みたいのにその新番組のニュースを書いた憶えがある)。ワタシ達の少年時代はまさに円谷プロとともにあった。

 だから1996年,宝塚造形芸術大学の大村皓一教授から話があって「ウルトラマンゼアス2 超人大戦・光と影」のCG製作を手伝えたときは嬉しかった。ノー・ギャラ(貰ったのはスタッフジャンパーとバルタン星人のフィギア1体,ホントはウルトラマンのフィギアもあったんだが,これはマシン貸与のお礼として某社社長へ渡った)だったけど砧の着ぐるみ工房の見学とか至福の時間でありました。

 あ,自分のハナシばかり長くなってしまった。本書はそのように多くの少年(場合によっては少女も)たちの人生に影響を及ぼしてきた円谷プロの裏面史。創業者円谷英二からの伝統である完璧主義と,それに伴う金銭面でのルーズさ。夭折した二代目,円谷一のあとを引き継いだ弟・皐(のぼる)の独裁と著作権ビジネスの誘惑。そしてTV局やスポンサーのとの確執。紙幅もないことだしここでそれらをあげつらうことはしない。興味がある人は自分で読んで欲しい。

 読んでる間ずっと,一つの言葉を思い出していた。1919年のワールドシリーズにおけるシカゴ・ホワイトソックスの八百長事件。所謂ブラックソックス事件で法廷に立ち,関与を認めた強打者,シューレス・ジョー・ジャクソン(映画「フィールド・オブ・ドリームズ」で甦る選手)にファンの少年が投げ掛けたという言葉。「嘘だと言ってよ,ジョー!」。

 もちろん60歳を超えたワタシにはここに書かれていることが嘘でないとわかってるわけだけど。


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