米イェール大学で教鞭を執るナリタ某という経済学者の「老人は集団自決すればいい」旨の発言が話題なので、それにかこつけてこの映画にも陽が当るかと思ったのだがその気配がない。気配がないなら気配を作ろう微力ながら、とレビューを書いてみる。
近未来の日本。老人介護施設に猟銃を持った男が乱入、入居者多数を射殺した上で自らも命を絶つ。この事件がきっかけとなり、高齢化問題の解決策として「75歳以上の高齢者に安楽死する権利を認める」という法律が成立・施行される。要は75歳以上になって希望すればクニに殺してもらえる、わけだ。
制度は「プラン75」と名付けられ、自治体ごとに窓口が作られる。そこで対象者に制度の説明を行う職員・岡部(磯村勇斗)によれば、申請者にはいくばくかの一時金が支給され、普通はそのお金から葬儀費用が支出されるが、他人とまとめて火葬・埋葬されるコースもあり、それを選択すれば一時金はすべて自由に使うことができる。
78歳で職を失った未亡人・角谷ミチ(倍賞千恵子)はなんとか新しい職を探そうと努力を続けるが難しく、住んでいるアパートからも退去を迫られてプラン75を申請することを決意。役所からの相談役として彼女を担当した成宮(河合優美)と規則違反の交流を愉しみ、最期の場所へ向う…。
設定は藤子・F・不二雄の短編「定年退食」や、リチャード·フライシャー監督の「ソイレント・グリーン」を思わせるが、演出や描写は現代ニッポンにとっての「リアル」。末端で制度に携わる登場人物の葛藤がそのまま、ナリタ某のいう「解決策」に対するアンチテーゼになっている。必見。